手にした武器やりを通して感じるのは――柔らかい、肉の感触。

数多の戦いを潜り抜け、多くの化物あやかしを滅してきた――
――…けれど、この感触は初めて知るものだった。

 

「…―――」

 

 笑う。
アイツが、いつもみたいに――苦笑するわらう。
一体何に困っているというのか。
一体何を不安に思っているというのか。
一体誰に――申し訳なさを感じている、のか。

 でも、これはいつものこと。
アイツが心配や不安を抱えて「どうしよう」と苦笑するわらうのはいつものこと。
そして、アイツが憂慮する全てを、私たちが解きほぐして、打倒するのもいつものこと。

 だから――…

 

「…、……――」

 

 変わらずその顔に浮かぶのは苦笑い。
…でも、その苦笑えみに宿る感情いろは――戦場でいつも見せるソレとは違う。

 それは日常でたまに見せるソレ。
調子に乗って、勢い余って、若さ故に暴走する生徒なかまたちを諫める先生ねんちょうしゃ――のソレ。
…アイツがそんな顔をするということは、私は…暴走、しているんだろうか?
 

 …ああ、そうだ。きっとそうなんだ。
…そうでなければこんなこと――…こんな恐ろしいこと………できるはずがない…!

 

「ッ……!」

 

 アイツの顔が、苦痛に歪む。
反射的に、助けなくては――と思う。でも、そう思った私を見ていたのは黒い目・・・の男。

 白と黒が反転した目に、憎しみと狂気を宿し、アイツ――の全てかおを奪った敵だれかが、嗤う。
見慣れたアイツの顔で、今までに見たこともない表情かおで。

 悪意に満ちたアイツの顔が恐ろしい――ということはない。
ただ、アイツがそんな表情かおをしているという事実が、それ故に成る結末――
――無情れいせいな頭じぶんが下した判断が、恐ろしい。
 

 ……ああでもコレは…恐ろしい、なんて高等なモノじゃない。
コレはあれ、どうにもこうにもしようのない――子供のワガママ、拒絶ヤダ、だ。

 

「……!!!」

 

 アイツの全てこえを使って、アイツじゃない敵だれかが私に向かって呪詛どくを吐く。
でもそれは事実の上に立つ糾弾であり、呵責――
――故に、誰が口にしたところでソレは私の心を抉り、蝕む。

 自分が犯した過ちに、自分の愚かさ、無力さに――自分の全てが否定される。
何もかも、私おまえは間違っている――
私おまえが存在していること自体がそも間違っている――
――ああきっと、その通りなんだろう。
 

 糾弾じゅそに心が納得すおれる。

 私は間違っていた、私は存在してはいけない――
――だから、断罪されなければいけない、削除されなければいけない。

 そして、その時はきっと――

 

「――甘えるなッ!!」

 

 …それが、アイツから初めて向けられた「怒り」であり、最後に向けられた――「感情」だった。