「特製オムライスサービス特盛一丁ー!!」

「へぇ?!いや、ちょっ、まだモーニングタイムなんだけどナー?!」

「ランチ限定ともディナー限定とも書いてないじゃん!」

「いやうん!そうだけれども?!」

 

 金属の装飾がされたアンティークのドアをぶち破る――勢いで入店すると同時に、大声で注文をすれば、
店番をしていた薄く水色かかっているがほぼ白髪の男が「ぎゃあ」といった調子で私の注文に「待った」をかける。
だけれど私の注文には不備も無ければ、店に対する無茶もない――だから!勢いがアレなだけで、とても普通の注文です!
常連限定の隠しメニューを常連である私が注文している――だけなのだから!

 

「あらあらまぁまぁ、ずいぶんと荒ぶっているのねぇ〜」

「むしゃくしゃを!ヴァレーネ母さんの美味しいご飯で落ち着かせるためにやってまいりました!」

 

 騒ぎを聞きつけてか店の奥から姿を見せたのは、柔らかな白銀の長い髪が目を引く美女。
彼女はこの店の店主であり、私の注文した料理の作り手――なので
料理を注文した理由であり、この店に来た理由を伝えると、白銀の彼女は穏やかな笑みを浮かべて――

 

「あらあらそれは――アウト〜」

「えー!」

「うふふふ、私の料理を暴食・・しようだなんて――悪い子、ですねぇ〜?」

「…おぁう」

 

 ずおとあつを増して首をかしげる白の美女――ヴァレーネさんに気圧され、
それと同時に色んな感情モノがごそりと削り取られる。
完全に意気消沈――でもおかげで冷静さを取り戻して、まず「ごめんなさい」とヴァレーネさんに謝罪する。
するとヴァレーネさんはいつもの優しい笑みをフワと浮かべて「どうぞ」と言って私をカウンターの一席に招いてくれた。

 小さく息を吐き、ヴァレーネさんに招かれるまま、金古美のスツールに腰を下ろす。
そしてそれから――ぺちゃとカウンターの上に突っ伏した。

 

「今日は酷い荒れようだねぇ?一体どうしたというんだい?」

「……今回の顛末しごとが個人的に気に入らなかった――…のと、
自分の未熟さと身勝手さがごちゃっとなって倍率ドンで………大爆発…」

「……タイトルを聞いても?」

「…――戦火の乙女と四天の騎士」

「ふむ?」

 

 聞き覚えがないのか、この店の唯一店員であり、ヴァレーネさんの息子である白の彼――エフィリンさんが小さく首をかしげる。
でもそれも仕方ないというか、当然というか。
コレはそこまでメジャーじゅうよう物語せかいじゃない――から、関わっている司書も少ない世界さくひんだ。
…その割に、司書こっちの負荷が大きすぎる気がするけどねっ。特に私の!
 

 戦火の乙女と四天の騎士――そう銘打たれた世界ものがたりは、祖国を守るために戦う一人の少女を主人公にした物語。
神剣の精霊の神託により故郷を、祖国を滅ぼさんとする大国に、少女は聖獣の導きの下、出会いと戦いを繰り返しながら成長し、
絆を結んだ仲間たちと共に「敵」を打倒し、祖国を救い、そして――運命の騎士と結ばれる。
そんな、英雄譚であり、恋愛小説の様でもあった物語――…。

 ……ん?そういえば結局あの子、一体誰とくっついたんだろう…?
ハッピーエンドそこを見届けずに役目を終えリタイアしたから…なぁ……。
…いやまぁ、誰であっても幸せにしてくれる――幸せな終幕みらいしか、
彼女には用意されていないんだから、余計な心配おせわってやつなんだけど……。
…しかしそれはそれとして、妹のような娘のような姫のような存在だったからねぇ………気になるな。小姑精神で。

 

「燎原の軍師、焔の魔女――…か。らしいやら、らしくないやらな二つ名だねぇ?」

「うんまぁ……自動的にお獅子の側面強設定だったからねぇ?…だから、冷酷無残なそーゆーこともできたわけで…」

「そうねぇ…心優しい貴女では、街に火を放つ――なんて、非情を犯す意気地はないもの、ねぇ?」

「…あれ?怒られてる?ねぇこれ、怒られてる??」

「うふふ、怒ってませんよー?
…そんな貴女だから、あれだけの司書みこがこの図書館せかいに集った――…ええ、ええ、本当に喜ばしいことです…。
…おかげで私もようやっと隠居――もとい、こうしてお店を開くことができて…!」

 

 とても嬉しそうな表情でヴァレーネさんはそう言って、私の前にカモミールのやさしい香りのするハーブティーを用意してくれる。
紅茶とは違う爽やかな香りに、思わずほっとしながら「いただきます」と言って口をつける――と、染み渡るような温かさにまたほっとした。

 

「…きっと、これからも貴女には性に合わないきにいらない役割しごとが降ってきます。
だけれどそれも、司書わたしたちの仕事であり、神子わたしたちが負うべき代償――…残念だけれど、こればかりは慣れるしかありません」

「…………」

 

 納得――よりも諦めの色が強い苦笑いを浮かべ、ヴァレーネさんは言う。「慣れるしか」と。
瞬間は、ムッとして眉間にしわが寄る――…けれど、やっぱり仕事と代償という単語で、納得寄りの諦めがついた。
 

 これは「仕方ない」――ではなく、「当然」のこと。
こんな死後・・を――…覚悟していたわけでは全くないけれど、
どんな困難みらいが待ち受けようとも打倒するもんだいない――と、本気で思ったのは私自身。
あの時は幼かった――と言い訳は立つけれど、
例え大人になろうが、晩年を迎えようが――いっそ死ぬ間際に尋ねられたとしても私の答えは変わらない。
…そして、こうしてグチグチ言っている今、改めて選択を迫られたとところで――私の答えは変わらない。

 獣神かれ神子モノになることで、
世界の全てを改変する権利ちからを――人の身には過ぎる大望を現実のモノとする力を私は手に入れて、
その力によって自分の願いを果たした――…わけじゃない、っていうかできなかった、んだけど、その人生けつまつに後悔はない。
…いや、正直とんでもなくどデカい後悔がまぁあるけど…――それでも、納得できる人生ではあった。

 これからも、性に合わないきにいらない役割しごとが降ってくる――としても、
あのじんせいを成立させるため――であるのなら、その役割だいしょうであるのなら、それは甘んじて受け入れる。
それだけの価値のある人生だった――ってこともあるけれど、正直そこまでこの神子ししょ役割しごとは嫌いじゃない――し、
最高の仲間たちといつまでも思い出を重ねられるというのは、どんな顛末じんせいにも勝る一生しょうがい、だからね。
 

 ……まぁ、今回はその仲間たちが敵に回って殺し合いで最悪だったんだけどさ!!

 

「…そういえば……皇金こがねの兄弟たちはどうしたんだい?
弟くんはともかく、兄の方はキミとセットだろう?」

「……………」

「おや?まさかの彼まで敵に――」

「セットじゃねーですし。アレと私は別モノ――
――同じモノだったのは原典さいしょだけですのでー!!お分かりいただけるでしょうかー?!」

「おやおや…そんなに力んで否定しなくとも…。
……ほら、自称兄(笑)がとても悲しそうな顔を――ガハッ!?」

 

 ガチャンと玄関のドアが開いたと思ったら、バチュンという発射音おとが響き――バッチーン!と、エフィリンさんのおでこに衝撃が奔る。
…そしてそのままエフィリンさんは――気絶したのごりんじゅうだった。

 …なぜこの夢魔ヒトは、あえて他人の気を逆撫でに行くんだろうか?
好奇心が抑えられない――にしても、とりあえず逆鱗・・に触れに行くのはやめた方がいいと思う。
じゃないと――お母ヴァレーネさんが大変だ。謝罪――よりも、店の片づけとか修繕とかで。