人生最悪の誕生日から一夜明け、私は詠地家本家に呼び出されていた。
…もちろん、呼び出したのはお祖母様だ。

 確定で最悪な現実を叩きつけられる――それをわかっているだけに、呼び出しを拒否した――かったけれど、
大きな力の前に小娘の抵抗などあってないも同じで、私は有無言わさずして――というか強制的に本家に連行されていた。
 

 強制連行の末、通されたのは和室の応接間。
そこには既にお祖母様がいて、お祖母様は私を見るとふっと笑って、自分の向かいに座るよう言う。
そう促され、私は大人しくお祖母様の向かいに腰を下ろす。
ここまで来てしまっては――いや、端から抵抗など無駄なのだから。

 

「さて、察しのいいオマエのことだ。状況はわかってるね?」

「…なんとなく、は……」

「そうかい――ま、わからなくともこれからわかっていけばいいさ」

 

 気楽に言ってくれるお祖母様に――思わずむかっ腹が立つ。
他人事だと思ってこのばばぁ…!と内心、はらわたが煮えくり返る思い――だったのだけれど、ふと疑問が浮かび、頭が冷静になる。
浮かんだ疑問に答えを出そうと頭をひねるけれど、一向に答えは出てこず、最終的に私は思い切ってその疑問を――お祖母様にぶつけていた。

 

「…お祖母様も……経験されたこと、なんですか……?」

「はっ、まさか。あたしはただの『次期当主』だったからねぇ。
あんな乱暴な方法で婿を選んじゃいないよ」

 

 あっけらかんと言い放つお祖母様――に、息を吹き返す憤り。
それを隠すことをせずにお祖母様を睨む――けれど、役者の違いか、お祖母様は涼しい顔で自分の前に置かれたお茶に口をつける。
人の気も知らず暢気に茶をすするお祖母様の姿に、不満のダムが決壊し――かけるところをぐっと堪えて、
何とか平静を保ちつつ、お祖母様にどうにかならないものなのかと尋ねる。
すると、お祖母様はなぜか呆れた表情を浮かべて「はぁ」とため息をついた。

 

「…思ってもいないことを聞くんじゃないよ」

「う゛…」

 

 図星を突かれて思わず呻く。
…お祖母様の言うとおり、正直なところは、どうにかなる――なんて、思ってなかった。
どうにかなるなら、どうにかしてくれているはずなのだ――お父様なり、お祖母様なりが。

 最大の頼みの綱であるお祖母様が「指示」するのだから――それは必要とされていること、なのだ。
その辺り、なんとなくはわかっていたのだけれど、それでも――希望にすがりたかった。
だってそれくらいの内容でしょうよ…これは……。

 

「とにかく、もう『賽は投げられた』――ってやつだ。観念して旦那探しに勤しみな」

「………どうしてそんなに急ぐんですか…。…まだ私16ですよ…?」

「そーゆーモンだからさ」

 

 開き直ったような調子で言うお祖母様の言葉に、思わずテーブルに突っ伏してゴッと額をテーブルに打つ。
痛い、けれどそれはあまり気にならない。というか、それ以上に頭が痛かった。

 なぜこんなでたらめなことに巻き込まれれねばならんのか――
…考えたところで答えは出ない、というかそれも「そーゆーモン」で済まされるのだろうから、考えたところで意味はない。
……でも、「なぜ…」とこの現実に疑問を呈さずにはいられなかった――…って、ずいぶん騒がし――

 

「っっ…!ね、ぇ…!さっ…ぐふっ……!!」

「っなッ…?!みっ…みおりーーー??!!!」

 

 応接間の向こう――廊下からドタドタと慌ただしい足音が近づいてきているなと思っていたら、
スパンとふすまが開かれて――顔を真っ青にした双子の弟・みおりが乗り込んできて……っていうか倒れ込んできたー?!

 

「みおり?!ぇ、なに…?!なにがどういうこと?!」

「ぅぅ…ねぇさん、は……おれ、が……っ…!」

「わっ、ちょ…?!なんかそれダメ…!それっ、死亡フラグにしか聞こえない…!!」

 

 畳に体を打ちつける――そのすんでのところでみおりを抱きとめ、驚きのあまりに「何事だ」と問えば、
息も絶え絶えといった様子でみおりは「姉さんは」と、自分の思いを伝えようと口を開く。
…けれどその様子はどう見ても今わの際にある――薄幸の美少女。
このまま喋らせてしまっては、このまま思いの丈を話しきってしまったら…!
本気でこの子は死んでしまう気がする…!だからもう喋らないでホントに!!

 

「……ったくまぁ耳が早いねぇ――
高踏御殿の姫様は、浮世に無興味すぎて参ったもんだ――と、相談ほうこくを受けてたんだがねぇ」

 

 双子の片割れおとうとの生死がかかっている――
――様な気がしてならない悲壮な空気感が漂う中、それをまったく感じてもいないらしいお祖母様。
のんきに、でもどこか呆れた様子で、首をかしげながらお祖母様がみおりに向かって言葉を投げれば――

 

「っ…姉さん、が…絡めばっ…話は別です…!
姉さんは鳳凰ノ神子の片翼――…御殿・・の大黒柱なんですから…!!」

「ほー?だから華戸ごてんはまとまらない――ってかい?」

「ぅ゛…」

「――まぁそう、我らが姫を責めないでいただきたい。
貧弱の身で、最低限はこなして・・・・・・・・いるのですから」

「ぐ、ぅ…!輝望…!」

 

 不意に部屋に、そして静かに会話に入ってきたのは、憲法色の個性的オリエンタルなスーツを着こなした美丈夫。
みおりの能力不足を指摘するお祖母様に、男は姫――みおりを責めないで欲しいと口にする。
…けれど、彼が最後に加えた言葉は明らかに追い打ち――いや、これは告発と言ってもいい。
最低限を精一杯やっている――のではなく、最低限をこなしているだけ、だと。

 ぅうーん…みおりに色々を任せてる身だから言えない・・・・けど……
…自分のこと棚上げしたら「コラ」って言っちゃうかなぁ……。

 

「しかし、我らの姫の言う通り姫様――澪理様が華戸において重要な存在であることは事実。
ですから華戸われわれとしては、澪理様を保護したいのですが」

「………保護?」

「ええ、そうです姫様。今の貴女はただの『詠地当主の孫』にあらず。
今の貴女は『大鳳』――かつて、詠地初代当主だけが冠すことを許された、散財を圧して余る招財の女の称号
カタチとしては座敷童――ですが大鳳は『座敷女神』と形容するに値する規模・・
…さて、そんな錦煌の小鳥を囲えるとなったなら?」

「…………そ、れが…本当、なら………なんとしてでも、欲しい……よねぇ…」

「ええ、だから――そういう保護コト、なのです」

 

 綺麗な顔で、歪みのない笑みを浮かべ、鬱金色の髪の美丈夫ひとならざるもの――輝望海帝は言う。
保護コレあなたを思ってのこと――「大鳳」の力を欲する不逞の輩から守るため、だと。

 …常識で考えれば、初代かこ実績じじつがあるとはいえ、
文明の進んだこの現代社会において、座敷童うんぬんと迷信めいた「話」を信じる人間なんて如何ほどもいない――
――だろうけれど、なにせ詠地家は神を楽しませるために興った巫女の一族いえ
そして、それに連なる一族もの、そしてその恩恵にあずかる一族いえ――からすれば、
たとえ世間からすれば眉唾物の迷信ハナシでも信じる価値はある。
もし仮に、それが迷信であったっとしても――
――大鳳の栄光は、必ず誰か・・によって演出されるじっせきをあげるのだろうから。

 さて、事の真偽はともかくとして――

 

「…人攫い、でも起きる……と…?」

「起きえない――とは言い切れませんね。
…牡丹様が、余計なこと・・・・・を仰ったようなので」

「………」

 

 若干、呆れたような表情で言う輝望――にならうような形でお祖母様に視線を向ければ、
ジト目で自分を睨むまごを見るお祖母様の顔に浮かんでいるのはニヤニヤとした愉し気な笑み。
私が困っているのが面白いのか、それともこの先に待つすったもんだを想像して愉しんでいるのか――
…まぁいずれにしても碌なこと考えてないぞこの人!
 

 お祖母様の余計な一言――「子宮を」とわざわざ言ったせいで、
既成事実――身籠らせたモン勝ち、みたいな認識になっている――らしい。
またこれ、常識で考えれば強制的な生殖行動――合意のない性行為は真っ黒な犯罪行為。
そしてその手前に犯すだろう誘拐も含めた犯罪それらが明るみに出た時には、
一族徒党まるっとひっくるめてその全てが社会的な死を迎えるだろう。
……とはいえ、それは犯罪コトが明るみに出たなら――の話、だ。

 詠地をはじめとした「一族」は良くも悪くも強固な結びつきで繋がっている。
末端の崩壊が、及びに及んで中枢にまで影響を――ということがある「一族」だけに、その犯罪あくが身内から告発されることはない。
…結果、その犯罪あくが外に漏れることはない――なら、確かに身籠らせたモン勝ち、だ。

 

「……最悪の場合、初代の・・・再現もあり得ます。それを避けるためにも、姫様には――」

「…待って。…よく考えたらコレ……大鳳制度って…?!」

「それは、濡れ衣というものですよ――澪理?」

 

 柔らかな光――と、ポンッという軽い音と共に、みおりの額の上に姿を見せたのは――山吹色の小鳥。
クルリと巻いた長い尾羽――と、同じくクルンと巻いたアホ毛、のような頭の飾り羽――は、自然界にはない姿カタチ
そもそも光と共に、そしてポンッなんて音と一緒に姿を見せている時点で
常識のまともなモノじゃない――んだけど、このは特にまともじゃない・・・・・・・

 

「ふふ、確かに貴女を『大鳳』とすることを許可したのはわたくし――
――ですが、それを打診してきたのは牡丹、ですよ?」

 

 愛らしい小鳥の姿――からは想像もつかない深みを以て、
山吹の小鳥は私の肩に停まりながら愉しげに自身の無罪を、あくまでことの首謀者はお祖母様だと言う。

 …確かに、お祖母様の性格――というかこう…芯の強さというのか、豪胆さを考えれば、
たとえこのの言葉であっても、不満があれば応じなし、反対されても強行するくらいの人だけど――
…お前の協力がなかったら成立は、してないよね??

 

「こーぅら、ウチの氏守神様を睨むんじゃないよ」

「………」

「くくっ、だからってアタシを睨むのもどうかと思うがねぇ?」

「……だって…日向が原因じゃないなら――『そーゆーモン・・・・・・』じゃないじゃないですか…!」

 

 時代錯誤――というか常識から外れた「仕来り」を、アレやコレや未だ抱える詠地家。
その原因の7割くらいを担っている――のは、この小鳥。
詠地の祖・稀代の巫女にして、傾国の遊女と称された詠地家初代当主を己が神子と見初め、
その絆によってその子孫こらを見守り、時に神子の興した一族いえを襲う厄災を吹き払う氏守神――獣神・鳳凰ノ神、だ。

 はじまりから今に至るまで、詠地家が芸能の業界せかいにおいて影の大御所としての地位を保っていられたのは、
厳密なところは、鳳凰ノ神ひなたの要望に応え続けた先人たち――
――だけれど、それも超常のパトロン・・・・がいてのこと、だった。

 他所が飢餓に苦しんでいたとしても、加護・・によって得た富によって飢えから逃れ、芸に邁進し――詠地は更なる財を成してきた。
今でこそ、その加護による恩恵は薄い――が、それは相応の応えを還せていないから。
応えるモノがあれば、鳳凰ノ神かのじょはいつでも還してくれる――芸術と、色恋を愛でる、栄華の神である鳳凰ノ神かのじょは。
…だからこそ、鳳凰ノ神ひなた主導じゃないのにこの常識外れなトンでもない案件ハナシの原因ってなに…!!

 

「澪理」

「…はい?」

「アンタ、将来はどうするつもりだい?」

「………へ?将来??」

「ああ、将来――アンタは、なにをどうするつもりだい?」

 

 唐突に、こっちの質問も無視して――ではないんだろうけれど、お祖母様は現状脈絡のない問いを私に投げてくる。
いきなり大きくずれた話題に瞬間ムッとしたけれど、お祖母様が相手では反論したところで無駄――なだけに、すぐに質問の答えを考える。
さて、私は将来――………………ぅ、ん……?
 

 ふと、頭が重くなる――頭痛の親戚みたいな意味で。
将来のことを考えたことなんてなかった――そう、なかった。今の今まで。
今に不満がなかったから、過去に後悔がなかったから――わざわざ、未来に期待するまえをみる必要がなかった。

 今が幸せなのだから、それ以上を求めるのは欲張りだ――なんて自重ではなく、これはただの怠惰。
現状に満足して、ただ状況に流されているだけ――…なんて、どっかの刹那主義者よりも性質が悪いじゃないか…!

 

「…尾っぽに火をつけられた――……と、いうことでしょうか……」

「くくっ、そう感じくれたなら上々――財産なげうった甲斐があったねェ」

「ざっ――財産っ!?!」

 

 思っても見ないお祖母様のネタばらし――の内容に、思わず声を上げる。
確かに、昨晩のパーティーは盛大だった。
親戚――どころか傘下、を更に越えて詠地一門おもてすざくの枠さえ越えた一族いえまで招いていた。
――とはいえたった一度のパーティー。それで詠地家当主おばあさまの財産がどうこうなるわけがない。
…なら、お祖母様は一体どこに財産をなげうったのか――一体どこにそんな大掛かりなモノを…?!

 

「そうさ、アタシの一番の財産――一番の孫を、手放したのさ」

「…………ふぁ?」

「くく…今だから言うがね?
アンタがその気なら、芍薬すっ飛ばしてアンタに家督を譲ろうと思ってたんだよ?」

「……っぇ?!」

「そりゃあ律のヤツは反対するだろうが、アイツと年寄りロートルどもが何言ったところで、
次代を決めるのはアイツらでもなけれりゃアタシでもない――次代を決めるのは、その時代の連中だから、ねぇ?」

「……!?」

「ま、一応みおりも候補には上がったんだが――次点、でしかなかったねぇ」

「………いえソレ、は…『面倒を押し付ける』という意味でしょう――
お祖母様ねえさん方のことですから…ねぇ…」

 

 ため息を吐きながら言うみおり――に、
お祖母様は軽く笑いながら「だろうねぇ」とみおりの言葉を肯定した。
 

 お祖母様の娘たち――私たちにとっての伯母&叔母様たちは、
お祖母様の血を色濃く受け継いで――…というかいわゆる「詠地の女」の王道を行く人たちで。
自由人故に面倒しばられる事を嫌ってそれを避ける傾向にある――けれど、
だからといって一度背負った責任を「面倒」なんて幼稚な理由で放り投げるような人たちじゃなかった。

 …みおりはああ言っているけれど、それも・・・伯叔母ねえさんたちがみおりの能力を買っているからこそ。
みおりを事務方に置くことで、より詠地の体制を盤石なものにした上で、
伯叔母ねえさんたちが現場に出て行く――ことでより安定した詠地じぎょうの拡大ができる、と考えているから。

 ――それは、わかる。
「最低限」とか言われていたけれど、みおりは既に一こくを背負い、それを確かに守っている――という実績がある。
だから、みおりに家督を――次期当主に、という話が上がるのはわかる。それは、わかる――けれども、

 

「くくっ……こりゃ、やっぱりアンタには任せられないねぇ?」

「ぇぇー……?」

「ぅ、ゃ…そ、そういうところも、姉さんのかわ――…み、魅力とは思う…の、ですが………」

「…謙虚は美徳――…ではありますが、何事も過ぎれば毒――
…ただ、姫様の場合は『理想が高い』が故の弊害、ではありますが…」

「………………ぅん?」

「ふふ――いえいえ、貴女はそれでいいのですよ?
本来『鳳凰』とはそういうモノ。己の欲を追求し、美しく咲き誇る――ことで栄華を示す象徴、
そして信仰の対象となる……って、全力でイヤって顔してますねぇ?」

「……」

 

 お祖母様たちの言う私の「悪い点」というのはよくわからない――けれど、日向の言わんとすることはわかる。
自分が興味を持ったことは気が済むまで突き詰め、満足のいく形に仕上がるまで追求する――貪欲さ、というのは。
――でも、それによって「象徴」になるなんてのはお断りだ。

 自分の意思で好き勝手やった事についてきた信仰モノ――だったとしても、
勝手に盛り上がった末に、自分たちの都合で作り上げた理想を、象徴だからと押し付けられるのは――話が違う。
私はお前たちの象徴モノではない――し、お前たちのためになにかを成していきているわけじゃないんだから。
盛り上がるのは勝手だけれど、私を自分たちのための象徴そんざい――なんて思うのは、思い上がりにもほどがある。
片翼――とはいえ、こちとら序列第一位ほうおうの神の神子、なんだから。

 

「……とはいえ…このままじゃ、象徴にそうなる――…ってことだよねぇ……」

「ぃ、いえっ…!それは自分が――ぁでっ」

「やめて。そこで出張ってこないで――姉の沽券に関わるから」

「っ〜〜…!…!」

 

 出張ってきた――身代わりになろう、とでも思っていたんだろうみおりのデコをベチと叩いて制止して、
自分で叩いたみおりのおでこを撫でいたわりながら一考する。

 このまま、状況に流され続ければ、気づかないうちに「象徴」として祭り上げられる可能性がある――上に、
今のままのほほんとしていては、孕まさめとられて「象徴」として飼い殺される可能性もある。
…なんともしようのない現実じょうきょうだけれど――…これは、自分でどうにかしなくてはダメだ。
ここで、誰かを頼っては――

 

「…………」

「……そうですねぇ…。誘拐されてのすったもんだで生まれる物語ロマンス――…もあるでしょうが…
……もう片ほうの神子が心配と怒りで悶死する方が先になりそうですから…
――みおり、本日からの祈祷には気合を入れなさいね」

「ッ…言われずとも!」

「……」

 

 誰かを頼るわけには――と思っても、小娘一人で大人たちに対してできる抵抗なんて高が知れている。
だからせめて個人を頼らず個じんを頼ってみた――ワケだったのだけれど、結局みおりこじんを頼る形になってしまっている。

 一卵性双生児級の二卵性双生児とはいえ、私とみおりは全くの別人――で、私はみおりの姉。
姉なんだから弟よりも優れていなくてはいけない――とかバカげたことは言わないけれど、
可愛いたいせつな弟の前では――憧れるカッコイイお姉ちゃんでありたい。
どうしようもなく人間的なくだらない見栄――は、私が私であるためのルールなんだから――譲れる、ワケがない。

 

「――みおりは本日お休み――今日は私がる」

「!」

「お」

「我が舞は、みおり姫の神楽の代演になりますでしょうか――鳳凰ノ神ひなた様?」

 

 肩に停まる錦煌の小鳥かみに顔を向け――伺いを立てる。
現世に降り、日々を漂うばかりの神子わたしが、浮世に留まり・・・、日々を捧げる神子みおりの代わりになれるのかと。

 双子の姉弟――という以上に、鳳凰の神子の片翼であるみおり――と私の性質というのは極めて近いものがある。
だからみおりも、私と同じく貪欲な「探求心」というものを持っている――そして、みおりの「美」への探求心は私よりもずっとストイックで。
気まぐれというか、ムラッ気のあるみおりではあるけれど、表現者まいびととしての実力は、他の追随を許さないほど圧倒的――
――だけれど私は、それを素直に喜ぶほど出来た姉でもなければ――謙虚な舞人みこでもなくて。
だから、みおりの代演を担えない――ことはないと、思っている。

 みおりを、一人の好敵手まいびとと認めた上で、
私は彼と比肩する――勝るとも劣らない表現者まいびとだと、自負している。
それは、姉とかなんとか、そんな程度の低い見栄ハナシではなく――

 

「ふふ…そう、ですね――ええ、足りません」

「はァ?!」

 

 フワリと笑って鳳凰ノ神ひなたが叩きつけてきた「不足」――に、らしくなく声を荒げたのはみおり。
不足を叩きつけられ、悲しいような感情かんかくはあった――けれど、
比較されているかたがわに怒りを見せられてはさすがに悲しみマイナスも引っ込んで――冷静になる。

 傲慢が、いつの間にやら怠慢になっていたのか――と自分を嗤いながら、
怒り出しそうになっているみおりを宥めようと――

 

姉弟しまいで――を所望します♪」

 

 ニコリと、この上ない笑顔で言って寄越す日向――に、思わず渋面になる。
…それ、足りないじゃないよね?それ、追加注文だよね?明らかに。

 

「ほお、そりゃあイイ――アタシも、御相伴に預かっていいかい?」

「ええ、ええ、構いませんよ。
さすがの私も、この子たちを独り占めするのは気が引けますからねぇ」

「おやおや、ソイツはおかしな話だねぇ――この子らはアンタの神子モンだろーに」

「…ふふ、みおりだけなら――その通り、なのですけどね?」

「な…なに…」

「いえいえ、この立場は華やかにして甘やかですが――悩ましくもあるな、と」

「……あの…要領を得ないのですが…」

「ええですから――」

「澪理ッー!!無事かーっ?!?」

 

 障子戸をぶち破り、応接間に乗り込んできたストライプのスーツの義兄おとこ――
――に、鳳凰ノ神ひなたが言わんとすることになんとなし、察しが付くのだった。