誕生日――それは誰にでも毎年必ず訪れるイベント。
だけれどそれを祝いう否か、そして規模は個々によって違うだろう。
盛大に祝う人もいれば、一切祝うことをしない人もいる。
そして私はどうかといえば、両親が不在であれば友人とケーキを一緒に食べる程度で終わり、
両親がいれば軽いホームパーティーを開く感じで。
間違っても、セレブーなお誕生会を開いたことはない。
そして今後も、そんな大層なパーティーモノを開くことはない――はずだったのに、
なにがどうしたのか、16歳の誕生日は――高級ホテルで盛大に催されることになってしまっていた。

 私の誕生日に、盛大なパーティーを開くことを決定したのは――父方のお祖母様。
多くの芸能一族を束ねる詠地家の当主たる方で、日本の芸能の世界においては知る人ぞ知る影の権力者。
ただ、それを鼻に掛けることをしない気風のいい人で、私も大好きで、尊敬するお祖母様――…なんだけれど、
薄く浮かべた不適な笑みで本心を綺麗に隠してしまう人だけに、その心の内が読めないちょっと怖い人でもある。
――で、今回はその怖い部分が発露した結果、なのだと思う。
 

 私の父は、詠地家当主の息子――しかも長男。
だけれど詠地家は、初代当主が女性だったことから、興った時代ときから女性の方が強い家系で。
だから相当の例外がない限り、家督は基本当主の一女に与えられる。
だから次期当主は私の伯母――父の姉となり、ただの長男でしかない父はかなりゆるい縛りの中にいて。
その流れで、私もほとんど詠地の人間として強い縛りを受けることなく育ってきた――…まぁ、お稽古事は有無言わさずだったけど……。
…しかし、それはそれとして、私は「詠地の人間」としてなんの期待もされていなかった。
なにせお祖父様――そして古い親族たちから嫌われているから。

 私の母は今でこそファッションデザイナーとして世界を股にかけているけれど、そもそもは一般人で。
その一般人と息子おとうさまの結婚を、祖父はずっと反対していて――その名残なのか、祖父は私に対して否定的だった。
…何かにつけて否定されてきた――わけではないけれど、存在を無視されていたことは、子供の頃から気づいていた。
…子供の頃こそ、冷たい祖父の態度に物悲しさを覚えたけれど、
今では面倒な上流階級の世界に巻き込まれなくて済む――と、喜んでいるくらいだった。
…だったっていうのに――…この事態は……。
 

 お祖母様と一緒に上がった壇上。
見慣れない私に注がれる人々の視線には様々な感情が宿っている。
慣れない上に、気持ちの悪い視線に、内心はグロッキーだけれど、そこはぐっと堪えて顔には平静を貼り付けた。

 別に、彼らが私をなんと思おうともそれは構わない。でも、私のせいでお祖母様の顔に泥を塗ることだけはしたくない。
だから、不快感を堪えて事が終わることを、お祖母様の話が終わる時を黙って待っていれ――ば、

 

「いいかい、今日からこの子は『大鳳』だ」

 

 お祖母様が、よく判らないことを言った――と思ったら、ざわとホールがどよめく。
事情はさっぱりだけれど、非常に面倒なことになっていることだけは確かな気がする。
その嫌な予感を抑えきれず、苦い顔でお祖母様に視線を向けれ――ば、お祖母様が私を見て不適にニヤリと笑った。

 

「山吹の加護が欲しいなら、この子を心を、もしくは――子宮をものにしてみせな」

「………ん?」

 

 おい、今なんと言っただろうか、このばばあは。
子宮をものに?はい?どういう意味でしょうか、それは。

 …心を、というのはなんとなくわかる。おそらく、落とせ――惚れさせろ、とかいう意味合いだろうということは。
でも、子宮をものにとはなにか。
体内にある臓器を手に入れものにしろ――とは、どういうことなのか。
これはあれだろうか、俗に言う胃袋掴め――的な意味なんだろうか。

 …ということになれば――

 

「!!?!」

 

 ゾッとする。物凄い勢いでゾッとする。

 私の脳裏をよぎったのは常識的にはありえないモノ――でも、
常識から外れた時代錯誤ともいえる「仕来り」を持つ詠地家であれば、
最悪の想像は「ありえない」と簡単には一蹴できない。

 そして、否定したくとも――自分の身に刻まれた経験が、最悪の現実を肯定していた。