じりじりと肌を焼く日差し――は、既に西の彼方へと沈んでいる。
干乾びる――通り越し、焼ける!とさえ思った暑さは失せ、肌寒ささえ覚えるほどに空気は冷えている。
…まぁ、昼の熱さあっての「寒さ」ではあるんだが。

 人工の光なく、また月の光もない夜の砂漠――と、王の墓所ピラミッド
肌寒さも相まって、なんとなく不気味に感じてしまう――
…まぁ、ここから数百数千のスケルトンとかマミーとかが出てきたところで、ぶっちゃけ全然対処できるんだけれども!
――とはいえ、この場を「不気味」と感じてしまうのはある意味で当然のことだろう。
なにせ現世ちじょう魔法世界まかいがつながる予兆――大魔孔から漏れ出る魔力が場を満たしているのだから。

 ここ連日、一応程度に様子を見ていたスフィンクス像――は、もうない。
ただ、今夜の作戦コトが滞りなく収束すれば、今夜中にも復活可能。
単にどいて・・・もらった子に、元の位置に戻って・・・もらえばいいだけの話だからねぇ。
……あ、でも、足元?ってか台座ってかの修繕に時間かかるかぁー。

 

「――お」

 

 瞬間、スフィンクス像が鎮座していた台座――のおくから魔力ねつが湧く。
漏れ出る煙の様で、あふれ出る泥の様で――とにかくのろりとした感じが気味が悪いふかい
…一体魔界したでは何が起きているのやら――と、余計なことに思考を回したその瞬間だった。

 魔孔の奥の魔力量が一気に膨れ上がり、その勢いのまま地上に向かってせり上がる。
高濃度の魔力の渦が、噴火か間欠泉かのように吹き上がり、魔孔あなに封をしていた台座いしをぶち破る。
魔孔から噴き出した魔力の強烈さ――に反し、それによって開いた穴はドリルかなにかで開けたように綺麗にポカリと開いていて。
「ほほう」と感心した――のはものの数秒。開いた穴から魔物なにかが湧き出す――その前に、

 

業火の鉄槌マルクス・インケンディウム解放リベラティオー――!」

 

 闇色の空に待機していたスフィンクスの背から飛び出し、先行詠唱じゅんびしていた術――灼熱の焔を纏った鉄球マルクス・インケンディウム魔孔あなに向かって放つ。
その見た目の派手さに相応しい重さしつりょうに従って、灼熱の鉄球は魔孔へと落ちていく。
あかに染まった鉄球は砂を巻き込み、砂に埋まっていた台座をも巻き込んで、それに触れるすべてを溶かし――魔孔を、紅蓮マグマで塞いだ。

 熱によって赤に染まった魔孔はまさしく「地獄の入り口」――だけに、これは真っ当な生き物には死をもたらす害でしかない。
魔物の放出を防いだのは良い――が、コレを放置しておいては、魔物が世に放たれた方がまだよかった――てなコトになるだろう。
だってコレ、国の経済支える観光地に立ち入り禁止級の火口ができちゃった――ようなモンだし。
 

 ぐらぐらえる穴の真ん中――にあるのは、術の核となった鉄球。
赤に染まったそれは「鉄球」というより「熱の塊」と言った方が適当――
――かもしれないが、熱の塊と形容するにはいささか温度が低い。火の属性を持つ――頂点しおうの神子的には。
とはいえ、これくらいでちょうどいいと言えばちょうどいい。これ以上――となると、そのままズルッとあっちに落ちちゃうからねぇ。

 世界にあるおおよそのモノを焼き、溶かすだろう熱の中心うえに立つ――が、実感としての「熱さ」はない。
火を眷属とする獣神の神子だから――なんて理由じゃあなく、これは金獅子ノ神の武装へんりんが持つ特権に因るところ。
全てのエネルギーねつの影響を無効化むしする――それが金獅子ノ神の盾の神格武装【皇金獅子衣】が持つ獣神オレ様特権。
物理攻撃に関してはただのマントぬのだけれども、こういうにおいては万能にして無敵なモンで――マグマだろうが灼熱鉄球だろうが屁でもないのだ。

 

「――――」

 

 真っ赤に染まった鉄球の上――でしゃがみ込み、そしてそれに素手で触れる。
はたから見ればとんでもなく異常な光景だろうが、当事者としてはまったく異常はない。
熱さはなく、想定外もなく――ことは粛々と進展していた。

 地獄を思わせる灼熱の炎は勢いを失い、ぐらぐらと煮え滾っていたマグマはひかりを失い――俺が立つ鉄球も、赤から黒へと色を変える。
そうして失われた熱の全ては俺の手の中に集束され、気力だなんだとこねくり混ぜれば――たった一つの、金の弾丸へと姿を変える。
それを盾の武装マントと入れ替える形で呼び出した矛の武装じゅうに装填し、魔孔そのばから飛び退くように離脱する――と同時に、

 

「――咆哮弾」

 

 神降術ワザの発動を口にすると同時に銃の引き金を引けば、真っ赤――を通り越して白火した銃弾が放たれる。
放たれた白が、真っ黒な鉄球に着弾したその刹那、白と黄の炎がほとばしり、それに溶かさやかれた黒の塊は、そのまま銃弾ほのおの勢いに巻き込まれ――
――ポカリと口を開けたままの魔孔のなかへ消えて行く。

 間違いなく、着弾したは地獄絵図――だろうが、んなことは俺が気にかけたことじゃない。
おそらくこの魔孔はもう数十年は使い物にならないくらいの被害を受けた――だろうけれども、そもそも現世こっちから言わせりゃあ魔孔これは無用の長物。
しかも「不要」どころか「邪魔」ですら済まない「有害」なモノ――なんだから、魔界あっちの都合を優先する道理はない。

 ――つか、そこら辺の煩わしい規定に沿ってやる義理が、俺にはそもないしー。
 

 全てを焼いた炎の余韻――真昼の砂漠を思わせる熱さにうんざりするが、
こんなことまで身勝手に矯正するのもどうかと思った――ってより「省エネせねば」と思い直して、「仕方ない」とこの熱さを享受する。
――つっても、耐熱術式で全身保護してんだけどね?

 気力とか魔力とか、そーゆーエネルギーちからの消耗は大きかった――が、ヴィクトリア湖いつぞやの魔孔を思えば、大したことはない。
単純な、エネルギー量で言えば、今回の方が多いが、俺の消耗という観点で見れば、ヴィクトリア湖ぜんかいの方が大変だった――だって力の大半、自前だったし。
 

 はぁヤレヤレ――と一息吐いて、このド派手に開けた穴はどうしたもんか――
――と考えながら一歩踏み出すその手前、不意に後方から「兄ぃ!」と若干不機嫌そうな声がかかる。
それに反射で振り返ってみれば、そこにはこっちに向かって走って来る幸虎の姿。
置いてきぼりを食らって不機嫌――なのかと思ったが、真っ赤な顔でずんずんこっちに向かって来るところを見ると、

 

「ぅ、わっ…?!」

 

 自分からも歩み寄って、幸虎と合流する――とほぼ同時に、幸虎の頭をわしゃと撫でる。
すると俺に頭を撫でられた幸虎は、らしくない俺の行動に驚いて身を引く――
――が、すぐに俺の行動の意図が分かったようで、少しばかり申し訳なさそうに「ありがとう」と言った。

 

「鋼西ってばスパルタねぇ」

 

 幸虎が不機嫌そうだった理由――であり、顔を真っ赤にしていた理由は、幸虎の耐熱術式が不完全だったから。
いつかには、こういう保護だの加護だのはぜーんぶ後方支援担当の霧嬢と、
バフ付与もり担当の澪理が担っていた――だけに、術の行使が苦手な連中は霧嬢たちに頼りきりの任せきりで。
結果、苦手を克服する必要すらなかった幸虎――は、単独行動をとるにあたり、こうして色々な場面で自分の不器用さに難儀している――んだろう。

 …だからって、不完全な術式でこの熱さ・・・・に突っ込もうとするのを「勉強だ」っつって送り出すのもどーかと思うわー。
てかそれ、厳密言ったらスパルタですらないと思うんだわー。

 

「こーでもしねーと身に付かん――てか身に付けん・・・・・のよー」

 

 俺のスパルタ発言いやみに応えを返したのは、幸虎――の肩の上に姿を現した白い小虎。
丸っこく愛らしい姿――に反し、発せられる声はハスキーで、その発言ないようもまぁまぁガラが悪い。
色々とあべこべな小虎――白虎ノ神・鋼西ではあるが、今となっては慣れた光景だけに、あべこべそれに対するツッコミはなかった。

 

「…分業制の、弊害だわねぇー」

「…つか兄ぃ……こーゆーコト、できたんだ…」

「いや?基本は勇ちゃん的気合アレよ――…ただアレ、ちょー燃費悪いから、燃費のいいほうほうを覚えたの」

「………」

「あのねぇ、確かに俺は天才・・よ?
でも、ゼロからぜーんぶ自分で組み上げられるほど――頭脳派てんさいじゃーないの。
――ま、吸収力は天才の名に恥じないけどっ」

「…最後の自慢いらんっ」

 

 自分に対する苛立ち――じゃあなく、ホントに俺に対する不満を浮かべて幸虎が「がう」と吠える。

 強いて――言わずとも、脳筋派分類だった俺だけに、幸虎じぶんと同じだと思っていたあいてが平然と、
こまごまとした保護系の術式を使っていた――挙句に、自慢までされりゃ、そりゃあ腹立たしいおもしろくない
――てか「裏切った!」とか思われても仕方ないだろう。
だって大真面目にこの手のことは霧嬢たちに全投げしてたし――あとは皇金獅子衣ぶそうでどーにかしてたし。

 

「…つか、よく考えたら幸だってできるだろ?気力保護」

「……できる…けど、さ……――…長続きしない、し……それこそ燃費悪い……」

「……………鋼西の加護フォローあるんだからええやんけ」

「ッ…!」

 

 正論を幸虎に投げる――と、返ってきたのは憎しみが混じる怒りの表情。…どうやら、コイツも同じ結論ところに行き着いた――らしい。
さすが似た者同士――とはいえ短絡的にソレを手放さないあたり、幸虎の方が冷静というのか謙虚というのか――人間じぶんの程度を弁えているというか。

 …とはいえ、それはある意味でとんでもなく身勝手な在り方――…なのかもしれないが、
自分の無力よわさを呑んだ上で意思ごうまんを貫く剛胆さは、俺たちにはだれにも無い幸虎だけの個性つよさ
だからそれは見ていて心地よく、また巻き込まれても面白い――…んだけれども、そーゆーの、俺の担当じゃあないんだよねー。
なーにせ、我が子を谷から落とす雄獅子だしー?

 

「霧嬢――てか、あのババアんトコ行く――か、西のババアんとこ行ってみりゃあいーんじゃねーの〜」

「西……」

「イヤイヤイヤイヤ、バカ言うなバカ言うな。
幸に西の大師匠ババアとかムリだっつの――大体っお前でさえ死にかけてたろーが!」

「あらースパルタ方針の鋼西サマとは思えない過保護発言ねえ〜」

 

 俺の役割ぶんやじゃない――とテキトーに、それに代わる案を上げれば、鋼西が叫ぶように「無理」と却下する。
さっきまで、幸虎の無茶を許容していたヤツとは思えない――がまぁ至極当然な言い分に、からかいの意味で「過保護」と指摘した――ところ、

 

「過保護じゃねーわいっ。千可と違って、あのババアはガチでりにくんだよッ――
ちょい姐さん!何とか言ってくれよ!お宅の神子むすこがうちの神子にイジワルすんですけどー!」

 

 おそらく鋼西は、俺の発言を自分に向けられたものとは思わず、幸虎に向けられた――発破と、受け取ったんだろう。
確かに、負けん気の強い幸虎のこと、「無理」とか「過保護」とか言われれば、「なにくそ」と反発してくる――
――だろうが、幸虎が持つもう一つの財産さいのうを考えれば、反発それはない。
実際、俺たちの会話を聞いていた幸虎は――

 

「ふふ…確かに鋼西おまえは過保護ではないけれど――取り越し苦労常習犯ではあるねぇ」

「なんっ?!」

「ほっほっほ〜、幸はちゃーんと潮目を読める子よ〜」

「………兄ぃが死にかけた相手に突っ込んでく勇気…てか、根性っつーか……、…そこまでの無鉄砲バカにはなれないっつの…」

 

 基本、幸虎はその場の勢い任せの向こう見ず――ではあるが、
その場のというか、降りかかってくる危険に対する感知能力が優れているおかげで、どーしようもないポカを犯したことはない。
確かに幸虎は、考えるよりも先に動く――無鉄砲なところはあるが、
生存本能でその可否を瞬時に判断してた上で動いている――だけに、生死にかかわる選択だけはいつでも冷静だ。そうは見えないけど。

 ――ま、それ以外については、鋼西の心配通りだけれども!

 

「つかまぁ――…一人にこだわる必要も、ないと思うんだがねぇ」

「っ…それ言ったら、兄ぃどーなんだよっ…」

「えー?俺は大体のこと一人でできるしー――澪理が認めたヤツおまえら以外とつるむ気無いし」

「……っ」

「これで意外と俺、謙虚だし――一途なの。気の多いアイツと違ってな」

 

 今こうして、幸虎と面白おかしく会話を重ねているが――もし、生死を問われる究極的なコトになったなら、俺は迷うことなく幸虎を切り捨てる。
たとえそれを、澪理が望まなかったとしても――澪理の命それだけは、俺が何を圧しても譲れない部分だから。
だから、極端なことを言ってしまえば――

 

「――でもまぁ今の俺は神子であって神子でない、からねぇ〜」

「………は?」

「とはいえ、性に合わずとも望まれればこなしますけれどもね。神子は神子なんで――んで、いかがいたします?姐さん?」

 

 そう言っておもむろに視線を向けた先――にいるのは、淡い黄金色のメスライオン。
俺の問いかけを受けてなお彼女の視線が向かっているのは――俺の言葉の意味が訳が分からず、怪訝そうに眉間にしわを寄せている幸虎の顔。
彼女にとって幸虎の反応かおはよっぽど面白いものなのか、それを見る彼女の顔はどこか愉しそうで。
ああこれは――と、楽しいような、面倒なような展開ことになると、思わず苦笑いする――と、

 

「おおーっと、怪しさ満点なのは百も承知だけれど――敵意を引っ込めていただけますか、神子様方?」

 

 一切の光を受け付けない魔孔やみ――の上、音も気配も、それどころか予兆ゆれさえなく、
初めからそこに居たかのように浮いているのは、裾に青の刺繍が施された白のローブを目深に被った――おそらく男。
見るからに――以上に、登場の仕方と場所が悪すぎて、当人が言う通りに怪しさ――いや、胡散臭さがまぁヒドイ。
…して更に追加要素を上げるなら――幸虎が、変な警戒・・・・をしてるってことだ。
 

 相手を害のあるものとは感じていないが、それでも相手が異質な存在で、その内側はらに含んだ危険性を感じ取っている――…ってなところだろうか。
危機感知能力に優れた幸虎ではあるが、だからって慎重で臆病な性格なのかと問われれば、そんなことはまったくない。
だからこそ・・・・・と、考えるより先に先手必勝と飛び出して、機先を制するのが幸虎の必勝法まいど――なだけに、
それをしないっつーことは、無暗に突っ込んで行ってどうこうできる相手じゃないと無意識に判断した――んだろう。

 …となると、余計にうさん臭い――わけだが、我らが獣神スポンサーたる白虎ノ神こうせいたちが、毛ほども動揺していないところを見ると、
おそらくはこちら側・・・・の――………関係者、であることは確か、か…。

 

「――で、なんなのオマエさん。胡散臭すぎて心から警戒解けないんだけどー?」

「ははは、それは申し訳ない――けれどこれが『夢魔』というモノでね。性質コレばかりは、誰にも変えられないのさ」

「……………世界中の夢魔さんに謝るべきでは?」

「………手厳しいねぇ――金獅子の神子なのに」

 

 不意に冷たさを含んだローブの男の声――だったが、それはこちらに対する敵意によって、じゃなかった。
というかその声が冷たかったのは、感情を含まなかったから――…っつーより、感情を殺していたから、だ。
…んで、極僅かににじみ出ていた感情いろ憎悪くろ――…だったことを考えると、これは金獅子ノ神ゆえに煮え湯を飲まされた被害者クチ――…だろうか。

 仕方ない――が、ある意味無関係の憤りもんだいに、心の中でうんざりしている――と、不意に男が「さて」と言ってその雰囲気を最初もとの明るく胡散臭いモノに戻す。
ここで個人の感情に蓋をしてくれるのはありがたい――が、それでも面倒くさい案件ことになる展開しか見えなくて、思わずうんざりした表情を男に向けた。

 

「まぁまぁそんな顔しないで――元を糺せば君が蒔いた種なのだし」

「はーん………俺が蒔いた種――ねェ…。
……そちらの頭領さんのことだから、イロイロ勘定尽くだったと思うんだけどォー…」

「いやいや、うちの頭領――私のマスターはまったくの無関係だよ。
夢獏の眷属とそう思い至って当然とは思うけれど、それに則らない眷属むまもいる――
…ただ、マスターの師匠マスターの命令じゃあ、逆らえないヨネェ〜」

「ぁ、あー…ぅんー…それ、は…まぁ……なんというか――…心中お察し申し上げますぅ…」

 

 厳密、「俺が蒔いた種」じゃあなく、夢獏の神子おまえのボスが仕組んだことだろう――と男に返したところ、
返ってきたのは訂正と理解と――肯定のような愚痴。
…なんとなし、理解できる立場と心境に思わず――…同情のような同調が出た。

 得体は知れず、胡散臭いことには変わりない――が、西のババアに振り回されている――というなら、コイツを疑っても仕方ない。
ババアの思惑に加担しているのは主の顔を立てるためしかたなくでしかない――というのは、おそらく本心からだろう。
あくまで俺の勘でしかないが――たぶん外れてない。

 

「…――で、俺に何の用だって?」

「それについては我が主の居城にて――…ご同行いただけるかな?」

「はぁ…行きたかないけどねェー…」

 

 ため息をついて男の言葉に同意を返す――と、俺の傍にいたノイ姐さんが静かに姿を消す。
…どうやら姐さんも同意見――まずは話を聞くべきだと考えているらしい。

 このまま、大人しく男について行っては――間違いなく、面倒なことになるのは確定。しかしだからって無視していいのかと問われれば、それはやや微妙なところ。
あのババアが夢獏の神子でしかない――なら、八割方無視を決め込んでもいいんだが…。
…なーにせ今は澪理のお師匠様だ。それを考えると、俺の都合で事の可否は決めるわけにはいかない――…それも含めて、相手が全部計算済みだとしてもネェ…!

 

「ちょ…兄ぃ…!」

「…行きたくない気持ちはあるが、アイツに害が及ぶ可能性があるってなら――俺はそれを潰す。
それが、俺の最優先事項だからな」

「……」

事後処理めんどうなことは幸任せになるが――ま、穣猫ノ神ガミールが上手いことやってくれるべよ。
てか、魔孔の魔力安定して、台座ここの修繕終わったらとっとと帰んなさいよ――あーんまり長居すると、アビールお姉様に首輪されちゃうぞ〜」

 

 心配そう――というよりは、不安げといった様子で俺を引き留めた幸虎――
――だったが、それで足が止まるほど俺は人好しじゃあない――し、そも幸虎に対して俺は「心配」というものをしていなかった。

 幸虎に、不安な部分っつーのはまぁあるけれど――それをカバーできるだけの人運、というのか、味方だれかを引き寄せるちからが幸虎にはある。
それが機能してる内は、幸虎の行く先に陰りが差すことはないだろう――から、幸虎コイツのことは放っておいてもだいじょーぶ。

 

「……兄ぃ」

「あん?」

「…――死ぬなよ」

「――」

 

 不機嫌そうな表情でひとを呼び、一体何を言うつもりやらと思えば――まさかの「死ぬな」。

 確かに、これから向かう魔女の元さきに致死級のなにかが待ちかまえている可能性はある――が、とはいえんなことで大人しく死ぬやられる俺じゃあない。
何とかうまくやって、なにがなんでも生き延びてやるつもり――だが、そこで澪理を人質ひきあいに出された時の俺の身勝手たんらくさを、幸虎は心配しているんだろう。

 …ふむぅー………まーさか、幸虎に心配されるとは――ねぇ〜…。

 

「さーてね、生死それは俺の自由だしー。
更に言うとーお兄ちゃんに弟分かくしたの忠告聞く道理ないしー」

「っ…そ、りゃぁ……」

「ただま、お兄ちゃんとして、カワイイ弟妹たちがガッカリするよーな、カッコ悪い死に方はしませんよ――それも・・・、俺の矜持の内だからなァ」

 

 ニヤと笑ってそう言えば、それを受けた幸虎は不機嫌そう――だが、それ以外の感情も混じったなんとも言えない複雑な表情で俺を睨む。
でもそれで、なにがどうこうなるとは思っていないようで、ふっかーいため息を盛大についた――のち、

 

「…兄ぃがヘマして一番ガッカリすんの――兄ぃが一番大事にしてる妹だかんな」

「へーへーわかってますとも。これ以上は――四皇おれらの沽券に関わるしな」

「………はぁ…なんでもいーけどさ…」

 

 呆れた様子でそう言って、幸虎は俺の傍そのばから大きく一歩下がる。
何を言ったところで無駄と悟ったのか、それとも俺の言葉に納得したのか――おそらくは、前者を経ての後者だろう。

 思いがけず物分かりのいい幸虎にニヨと笑いを漏らす――と、幸虎は口元を歪めてストレートに不機嫌さを剥きだす。
…またそれが面白くて「ぷふ」と笑う――と、

 

「もぉいィからッ、さっさと行けー!!