人の命を脅かす魔物――とはいえ、命を奪うことはしたくない――なんてのは綺麗事。
もしくは「命を奪う」という悪を背負うことを嫌った臆病者の建前。
そして俺の場合は――人と、同レベルの傲慢を布きたくないっつー自分ルールワガママだ。

 弱肉強食という絶対的ルールが布かれている世界――において、弱者だれか強者だれか淘汰さくわれるなんぞ自然の摂理あたりまえ
だがそれを、何の疑問も持たずに当然と行使するのは――知性と理性を持つ「人」としてはあまりにも動物的ていのう
獣にはない知性と理性を持ちながら、獣と同じ道理の上で生きるなど、なんと愚かぶざまなことか――
――であれば、理性有るすぐれた者は力ではなく、知恵を以て己の傲慢どうりを布いて然るべき。
己を、動物ケモノより優れた人間ヒトと言うのであれば――そしてまた、人よりも優れた人間みこであると謳うなら。
 

 魔孔暴走が予想されるXデーまであと2日――くらい、だそうな。
魔孔の暴走を予期したのは北の双子妹きりじょうの先見の能力チカラだが、Xデーそのひを割り出したのは灰ノ地平線騎士団グレーホライズンナイツ
だから正確な・・・その日は未だ割り出されていない――てかその日がくるまで「確定」はしないだろう。
…今の時点で確定してるなら、霧嬢が警告する前に気づいてると思うのよねぇ……。

 

「(…てかあのババア、絶対わかってたよな)」

 

 思い返してみれば、魔法世界まかいの警備強化に協力しろ――的なことを言ってきたあのババア。
わざわざあのババアがあのタイミングで、魔孔のつながる先――魔界うんぬんの話を持ち掛けてきたっつーことは、…まぁそういうことだろう。

 なんとなし、ババアだれかの思惑に乗っかるのが嫌でそれから反れた――のに、ただ遠回りして元に戻った感がヒドイ。
というか、あのババアのこと、端からこうなることを見越してたんじゃ――とすら思う。
誰かに自分の意思を見透かされ、それを踏んだ上で踊らされる――なんぞ、激しく遺憾で不服だが、
相手が相手だけに「仕方ない」と七割近い不満を呑んでいる自分がいる。
永遠を生きる魔女に、数多の時代を生きてきた先輩みこに、策略あたまで勝てる道理ワケがない――と。

 

 見上げる先にあるのは巨大な石像――と言っていいんだか若干わからなくなるくらいの巨大な石像モノ
顔の部分は人間のもの――なのに、寝そべる体はケモノのもの。どーゆー世界感でこんな組み合わせカタチを思いついたんだか――
…てか古代いつかの人々は、自分の目で見たことがあったんだろう。
この、人でもなく、獣でもない――神仏カミの使いを。

 

「……さすがに、スフィンクスコレがお空飛びまわってたらヤバいわよねぇ…」

「大丈夫だよっ、この子たち賢いから!わざわざ怒られることなんてしないよ!」

「ほほう、さすが聖獣――てか?」

 

 ふと石像――じゃあなく、本物の・・・スフィンクスが空を占領する光景を想像した――ら、横から「心配無用」と声がかかる。
「賢いから」という説明に「なるほど」と納得して視線を横――声の聞こえた方へ向ければ、
そこにはえへんと胸を張るちびっちゃい褐色肌の女の子がいた。

 

「…なーんでそこでステラが胸張るの」

「え、だってスフィンクスはガミールの眷属――の眷属みたいなものだし!」

「眷属の眷属は我が眷属も同じ??」

「にゃんこ大体皆姉妹!」

「………ステラのものさしスケールはでっかいのーぅ」

 

 一切の迷いなく、ペッカーと輝く笑顔でアタシ様ルールを展開するのは、褐色の肌にアイリスの髪が映える愛らしい美少女――ステラ・ラシード。
12歳と幼いながら、アフリカ圏のよるの平和を守る象徴かなめとなっている――穣猫じゅうしんの神子。
…ただ、実戦的な活動はほとんどなく、象徴はたがしらとして希望――という名の加護バフを振りまくのが役割しごとらしい。

 …なんぞ、どっかで見たことのある運用やくわりだけに、ちょーっとばかり引っ掛かるものがある――
――が、ソレとコレとでは危険度きぼが違うんだから不安を覚える必要はないだろう。
てか本来・・だと、俺が気にする価値のない相手――なんだが、

 

「うん!だからレーチーお兄ちゃんとユゥキお兄ちゃんも!私の大事なキョーダイだからね!」

「……それ、アビール姉さんが聞いたら悲しむぞー?」

「えー!そんなことないよー!
アビール姉さまはアタシの大切な姉さましまいで、アタシは姉さまの姉妹いもうとだもん!キョーダイとは全然違うんだから!」

「……なにこれ?どゆこと?アラビア語が難しいの?それとも言語変換つうやく術式の限界なの??」

 

 獣神キョーダイのつながりよりも、しまいのつながりの方が強い、と言いたい――にしては、なにか大げさな感のあるステラの口ぶり。
なんとなし気になって首をかしげてみる――と、ステラは少しむくれたような表情で「だから!」と改めて――

 

「アタシと姉さまは親愛の絆で強くつよーく結ばれた唯一無二のトクベツな姉さまと妹なの!」

「…特別ってなら、俺たちもけっこーな特別では?」

「えー?ユゥキお兄ちゃんはトクベツだけど、レーチーお兄ちゃんはトクベツじゃないよ――だってキラキラしてないもん」

「………」

 

 自分とその姉はこの世界に二組なない特別な存在しまいである――というステラに、
「俺たちも――」と指摘したら、平然とした顔で、まるでそれが当然であるかのように――強烈に心を抉られこせいをひていされた。
……なんなんこの子…。ヒトを大事なキョーダイ言いながら、へーぜんとざっくー心切り裂いてくるとか……。
…世の妹とはこうも兄に辛辣なものなのかーぁ……!

 

「でもスゴイよね、なのに・・・ユゥキお兄ちゃんから信頼されてるし、姉さまからも認められてるし……。
レーチーお兄ちゃんってホントにキラキラしてないけど――それでもカッコイイし、そばにいて安心するからアタシ好きだよ!」

「……………ぅん?…褒められとる?」

 

 否特別――と念を押した上、輝いていない――とも念を押された俺。
端的に言って「没個性」と形容されたわけだが、なのに・・・ステラにとって特別な実姉とユゥキお兄ちゃん――幸虎に認められ、
そしてステラ自身も俺を「カッコイイ」「安心する」と思っていると言う――が、…これって褒められてんの?

 ステラの言葉をどストレートに受け取れば、「なのに」と褒められているが、
これまでの会話的に、その言葉の意図ゆれを考慮すると――「なのに」と褒められているようにも思えるわけで。
前者であれば広い心で「ありがとう」だけれども、後者だとひろーい心をもってもさすがに「あンだと」が限界ですぞぉ…。

 

「もー!褒めてるよー!『好き』は最大級の誉め言葉なんだからっ」

 

 頬を膨らませ、怒ったような様子で「褒めた」と言うステラ――に、ふと我に返る。
なにを、俺はこだわっていたんだろうか――と。

 他人の評価なんぞ、俺にとっては無価値なのに。
たとえ俺が誰かにとって否特別むかちであったとしても、澪理アイツにとっての特別であればそれでいい――はずなのに。
どうして俺は、ステラコイツ評価ことばにショックを受け――て、その好意ことばを嬉しく思ったんだろうか。

 

「――あ!ユゥキお兄ちゃんだっ!」

 

 嬉しそうに第三者だれかの名を呼ぶステラの声に促される――
――形で後ろに視線を向ければ、頭までマントを被った青年がうんざりとした表情でこちらに向かってきている。
慣れない異国の風土きおんにやられたんだろうな――と思っていると、
それを毛ほども察していないステラが元気いっぱいに「おかえりー!」と言って走り出し、そのまま青年――幸虎の胸めがけて飛びついた。

 

「ぅ、わっ…?!な、なんだよステラっ…!」

「え?帰ってきたんだから『おかえり』って言うのは当たり前でしょ?」

「ぇ、いや…うん……。そ、れは当たり前だけど……さ…」

「アラヤダ思春期?」

「な゛っ、ちがッ…?!」

「ぅンン?なに?なんなの『シシュンキ』って!」

「あーなんつーの?照れ屋さんになる時期――っつーのかねぇ」

「ほお」

「だからっ!違うっての!!」

「ふーんシシュンキかぁ〜――でもなんで照れるの?挨拶しただけなのに!」

「日ノ本の民は慎み深いからねぇ〜。他人に触れることを遠慮する――要は慣れてないのよ〜」

「へ〜――じゃあ慣れないとね!他所の国はもっとダイタンだって言うし!」

「だっ…から…!違うって……!言ってるだろー?!」

「ええー?じゃあなんで驚いたのー?」

「っ…それ、は………」

「はー?」

「………ス、ステラがそういうことすると…周りの大人が嫌な顔するんだよ……っ」

「…へ?なんで??」

「そりゃあなんつったってステラはこの国の――ひいてはアフリカの大事なお神子ひめ様だからなァ〜。
取り巻きオトナからすれば、できるかぎり余計なモンから遠ざけたい――んだから、よーわからん異国の輩に懐く・・なんぞ、不愉快の極みなんだろうなァ〜」

 

 年相応――というのか、無邪気に振る舞い、素直に他人に懐くステラ――ではあるが、
エジプトこのくににおいて、そしてアフリカ大陸において、その存在はなによりも重要で、尊いモノ、だ。

 アフリカ圏は魔物による被害報告が少ない地域と言われている――が、それは報告されていないだけの話で、実際の被害は欧州よりも多い――と言われている。
そんな地域において、魔物に対する絶対的切り札――獣神の神子は、なにを圧してでも保持しなくてはならない存在だ。
んな重要で大切な存在に、同じく・・・重要な存在とはいえ、
この国の連中にとっちゃあうろ覚えレベルの遠い異国からっやってきたのやからが近づいたら――そりゃ、気が気じゃない。
だって連れていかれたら困るモン。

 

「も〜意味わかんないっ。ユゥキお兄ちゃんはアタシより偉い神子なのに!
アタシが怒られるならわかるけどっ、なんでユゥキお兄ちゃんが怒られるの?!ってゆーか!アタシが誰と仲良くしようが勝手でしょー!」

「…そうは言うけど――…お前が大事にされてる証拠でもあるんだぞ」

「う゛ーでもでもぉ〜……」

「――てか、そんくらい年上の度量で堪えなさいよ〜。年下に気ィ使わせるとか、年上としてどーな〜ん?」

「っ…!澪一兄が言えたことかよ…!」

「――だわな」

 

 「自分は――」と指摘してきた幸虎に、不敵なものを混ぜた笑みと一緒に肯定を返す。
するとそれを受けた幸虎は驚いた――というよりは、困惑したような表情でわずかに後ずさった。

 本気の不満、本心からの指摘じゃあなく、自分のことを棚上げした指摘、苦し紛れの悪態――に、返ってきたのはまさかの肯定。
同じ指摘を受けブーメランすると無意識に思っていたんだろう幸虎の顔には困惑の色が見て取れる――が、それを拾ってやるつもりはない。
そんな義理はない――というよりんな必要そもないし。

 

「そんじゃま、にゃんこ四兄妹の長兄として――キラキラしてない方のお兄ちゃんが一肌脱ごうでないの」

「…は?」

「…大丈夫?レーチーお兄ちゃんそーゆーのヘタクソそうだけど――大丈夫??」

 

 「わけわからん」と首をかしげる白虎おとうとと、「大丈夫なのか」と首をかしげる穣猫いもうと
金獅子あにが弟妹のために一肌脱ごうというにその反応は如何なものか――と思っても、そこは長兄おにいちゃんの度量で受け止める。

 らしくなれないことをしているという自覚はある――が、
この程度・・・・のこと、どーにかできないほど、お前たちの上司あには無能ではないのです。
――ま、問題なくうまくできるかどうかは別問題だけどー。

 

「なーに、かるーくダっちゃんで威嚇すガオれば自分の立場――てか俺らの立場理解すんでしょ」

「はっ?!いやっ、ダメだろ?!ガオるなよ!国際問題――国交問題とかになったらどうすんだよ?!」

「は〜幸よぉ〜。お前もいーかげん、自分の立場わきまえろよ〜。
神子おれらが背負ってんのは国じゃあなく世界――もしくはてめえのよくだけ。
国だの組織だの持ち出されたところで、んなのはお門違い――無関係むいみだっつんだ」

「………あの、なぁ…国の組織に雇われといて――」

「あん?誰がどこに雇われてるってー?」

「っ……」

「くく…ま、首輪付きおまえにゃ道理の通らん話かもだが――その道理を通したところで、お前の道義どうりにゃ沿わないんでねーの?」

「そ、れは……」

「――とはいえ、それで満足いく・・・・だけの成果があるならそれでいいだろうさ。
神子おれたちにとって過程は重要だが、人間おまえらにとっては成果の方が重要だからな。
お前をお前以上に上手く運用してくれるヤツがいるなら飼われてりゃいいさ――どっかの青龍かほごみたいにぃ♪」

「ッ――」

 

 肯定に肯定を重ね、最後の最後に青龍こうていを投げた――ところ、想像通りに幸虎から怒りねつが噴く。
その熱量たるや、肝の据わったステラですら「にゃ?!」と声を上げて飛び上がるほどだった。

 優しい兄貴分の豹変に目を白黒させるステラを回収して、避難させるように肩の上に座らせ――てから、
未だに、というかまったく殺気いかりを引っ込める気配のない幸虎に目を向ける。
するとやっぱり俺を見る幸虎の目には、アイツのえものを彷彿とさせる鋭い殺気が宿っていた。

 よく知った、なんとも愉しいここちいい殺気に、自然と口角が上がって、怒りそれを嗤う殺気を幸虎に返し――てやりたいところだけれども、それはさすがにここではしない。
ステラの手前――ということもあるが、とにもかくにも場所が悪い。
なーにせここは偉大な王の墓所を守る聖獣の石像スフィンクスの前――アフリカ大陸最大の魔孔の目の前、なモンで。

 

「――ほれ、さっさと戻んぞ。明後日の段取り、きっちり呑んでもらわんとならんからなー」

「っ――……はぁ…わかったよ…」

 

 何も考えず、いつもの通りで「ほれ」と幸虎に帰還を促す――と、幸虎は小さなため息を一つついて殺気を解く。
そしてわかりやすく不満を湛えたまま――ながらも、「わかった」と了解の意を口にする。
向こう見ず――のようで、意外と利口な幸虎だけに、コレは当然とさえ言える顛末で。思った通りの展開に思わずニヨと笑みを漏らす――と、

 

「でッ!」

 

 遠慮もなければ、手加減もない勢いで、思いっきり尻を蹴られた。――痛い!

 

「おーまっ、しばらく見ないうちに随分気力の扱い慣れたでねーのっ…!」

「そりゃッ?日々食っちゃ寝してたわけじゃないんでっ!」

「おーおーそりゃあ頼もしい限りだわよー――ま、前のまんまでも事足りただろうけどな、お前・・は」

「……」

「睨むな睨むな、そーゆーこと言ってんじゃないの――てか、規模考えなさい、規模を。この程度、神子おれらにとっちゃ朝飯前だろ」

「………はぁ…そりゃ規模レベルは朝飯前だけど……。…組み合わせが最悪だろ…」

「はっはー、俺を誰だと思ってんです?泣く子も黙る金獅子の神子サマですよー?」

「…だから・・・最悪なんだろ――…刀と銃じゃ敵は倒せても仲間を守れな――」

「――そこは、末っ子の出番。ステラは防衛に一点集中――んで、誰もここなかに入れんなよ?」

 

 ふと上に、肩に座らせた乗るステラに視線を向ける――と、ステラは不思議そうな表情をしたまま、俺をじぃーっと凝視している。
俺の問いかけにも答えず、黙ってじぃーっと俺を見続けるステラ――に、なにかちょっとばかり気圧されて、
思わず苦笑いしながら「なにごと」と尋ねる――と、ステラはその不思議そうな表情のまま「なんで?」とまず疑問を口にした。

 

「どうして?どうしてソレ出さないの――キラキラのピカピカなのに!」

「「はい?」」

「だから!ユゥキお兄ちゃんと話してる時のヤツ!すっごいキラキラ――ううん!ピカピカだった!!」

「……ぅ、ん゛ーー…………幸…意味、わかる…?」

「…………まぁ…なんとなく…」

「んじゃ通訳」

「……――…ステラ」

「「ぅん?」」

 

 俺が通訳を求めた――のに、幸虎が名前を呼んだのはステラ。
何故幸虎がステラを呼んだのかわからない――のは、呼ばれた当人ステラもらしく、俺と一緒になって首をかしげる――が、

 

「いいか、アレは一般人には毒――猛毒なんだよ。
たとえ退魔士どうぎょうでも兄ぃのアレは精神をられる有害なモノ――だから、アレは常日頃から自重してもらわなきゃならないんだ。
…じゃないと――戦争はじまるぞっ、戦争!」

「…あ〜〜…」

「…ちょ、当人置いてけぼりで弟妹ふたりで通じ合うのやめてくんない?」

 

 ――幸虎の言わんとすることに察しがついたらしいステラは、微妙に面倒そうな表情で「ああ」と納得した。

 …弟妹の意思が通じ合って、仲良くしてくれるのはよいこと――ではありますが、だからってお兄ちゃんをのけ者にするのはどうかと思う!
兄妹仲がいいのはとてもいいこと――だけれども、結託するのはよろしくないぞぉ…!

 

「そっか…レーチーお兄ちゃんはキラキラしてないんじゃなくて、ピカピカしちゃいけなかったんだね…」

「なに?!その憐れんだ目!」

「そーそー、兄ぃは出張っちゃダメなんだよ――…世界が完結するからなぁー」

「ぅんー…そっかぁ……じゃあ仕方ないねぇ〜」

「ちょっとー弟妹たちー。お兄ちゃんにもわかるようにお話ししてー」

「…わかんなくていいって。つか説明したってわかんないっての――…そもそもうまく説明できないし…」

「ぇー……」

「あ!アタシいいコトワザ知ってる!」

「ほお?」

「へぇ?」

 

 ペカと笑顔を輝かせ、名案とばかりにステラが口にしたコトワザとは――

 

同じ羽の鳥たちは群がるThey are birds of a feather!」

「「鳥じゃないですけど?」」