腹をすかせたライオンたちの狩りを手伝った――てか完全に肩代わり、水牛を一頭仕留めた――我が霊核式神・黒獅子ダスク。
気力の消耗を考えると、俺が自分で仕留めた方が省エネなんだが、なんか絵面的によろしくないのでダスクに代行してもらった。

 いつもなら、面倒そうに俺の頼みに応じるダスク――だが、姿の同じ眷属モノが関わっていたせいだか、嫌な顔一つせずに応じてくれて。
ダスクにこんな優しい一面があったのか――とは思わないが、俺にももうちびっとばかり優しくしてくれればいいのに――とは思う。
いや、常日頃から反抗的な態度取られてるわけじゃないんだから、
ある意味で贅沢な望み――…ではあるんだけれどもね。主人とも思われてない立場だし。
 

 双子の少年たちを守った勇敢さを労う形で、水牛をまるっと一頭ライオンたちに与え――
――て、大体の感覚で歩いて歩いて、歩きまくった末に、人の気配のある建物へとたどり着いた。
して、その建物の前には、いつものへらっとした笑顔を浮かべた海慈が立っていた。

 

「ちびっ子たちの容体は?」

「ご飯山盛り食べてぐっすり寝てるよ――…弟くんの方だけ、だけどね」

「ふぅ、ん?」

「…全部の原因は両親の死因コトなんだろうけど――…弟くんを守らなきゃって気持ちが強すぎて、ね」

「それは…なんつーか…………海慈向きの案件だわね」

 

 弟の安否を気にして――か、今だ警戒を解かないらしい双子の兄。
その構図はだいーぶ昔に見たことがある。…まぁ、その時は「俺が」じゃなかったけれども。

 心に傷を負った片割れのため、自分の全てをなげうっていた――のは、なにを隠そうこの海慈。
たった一人の片割れにくしんのため――というよりは、兄という立場だから妹に対して海慈はどこまでも献身的だった。
それが、とうにんのためにならないとも知らずに。

 …――とはいえ、心も体も未成熟な中学生こどもに、んな利口おとなな考えを求める方が無茶だろう。
まして、本気で海慈たちに対して心を砕いて、彼らの痛みを知ろうとした人間ヤツもいなかったらしい――し。
……ただそれでも、数年の後に彼らの心の傷――を、
当人たちの自己治癒力で塞がせた猛者バカが現れた――んだから、海慈たちは運がいい方だったんだろうが。
 

 ――であるなら、今回の双子は海慈たちよりも更に運が良い方だろう。
なーにせ、辛い思いを語らずともその辛さおもいを理解してくれる人間が手を差し伸べてくれるっつーんだから。

 

「…つーことは?海慈はしばらくここに留まるわけだ?」

「…そだね。あの子たちが日本に――両親と一緒に故郷に帰れるようになるまでは、ね」

「…………………ものすんごい現実的なこと聞くけど………腐らんの、ソレ」

「……それは…大丈夫だよ――…俺の権限で冷暗所・・・に保管してるから…」

 

 珍しく気まずげに、視線をそらして苦笑いする海慈。
…おそらくその「冷暗所」とやらは、人間の通りを超えた域にあるもの――なんだろう。

 他人を思っての事――とはいえ、どうりを外れたことをしている――という事実は俺と変わらない。
自分のことを棚に上げて、俺に正論を投げたことを、海慈は気に病んでいる――ようだが、
俺の独善と海慈の人助けはそもそも種類が違うんだから、同じラインで考えること自体――前提が破綻してんだからぶっちゃけ論外なのです。

 

「環境的には無理でも、そんくらい人類・・にも可能なことでしょ――マジんなちっこいことで気に病まないでくださる?
んなことで気に病まれると、ウチの妹病み病みで自殺案件なんですけどぉー」

「うわ、やめてやめて。ありえないってわかってるけど、そう言われるとさすがに心配になるから!」

 

 自分自身の身勝手こうどうを顧みることはとても立派なこと――ではあるが、
立派が更に立派を重ねると、阿呆のバカがまぁ居た堪れないほどに浮き彫りになってしまう。

 …今の俺は、澪理の気持ちの全てを把握できる存在・・じゃないが、今までの経験である程度の察しはつけることができる。
もし、今の海慈の心情を澪理が目の当たりにしたら――……じょーだん抜きで、ゲロ吐いて卒倒すんでないかね。

 

「……えーと、一応これで俺の依頼は完了だから――その、報酬おれいはどうする?」

「お礼……ねぇ…」

「…あんまり無茶は言わないでね。俺、器用でもないし、ツテもコネもお金もないから!」

「……端からそういう方向の期待はしてない」

 

 懸念なのか何なのか、「無茶は――」と前置いた海慈に「端から」と返せば、
それを受けた海慈は――毛ほども申し訳なさそうな顔もしないで「そっかー」とのんきに相槌を打つ。

 …別に、それをどうこう思って欲しいと思っていたわけじゃあないが、ここまで気にされないへいぜんとされるとちょっとばかりイラっとする。
――まぁ、海慈のコレにイライラしても無駄っつーか無意味なんですけどー。

 

「…じゃあ、ひとつ頼まれてもらうわ」

「ん」

 

 いつも通りののんきな顔の海慈に「頼み事」を促され――ひとつ息をつく。
らしくない俺の行動に、海慈はわずかに首を傾げた――ようだが、それを無視して俺は「頼み事」を簡潔に口にした。

 

「しばらく俺の面倒を見てくれ」

「…………………………………はい?」

 

 笑みを浮かべたまま、海慈は首がもげそうな勢いで首を思いっきりかしげる。
その疑問、リアクションは、これまでの俺の振る舞いと人格を思えば当然というか尤もと思うが、
俺たち・・・は変わらなくちゃならない――…っつーのは、全員・・の共通認識のはずだ。

 

「俺には人間的・・・修行が必要だ――っつってんの。
…言い訳の余地なく無一文なのは確かだけども、『養ってー』とか自尊心ドブに叩き投げられるほど切羽詰まってないし」

「…………………………人間的…修行……」

「…まだ俺に戦闘力求めんの?」

「あー…それはもう十分だけど…………」

「まぁらしくないっつーか、ガラじゃないっつー自覚はある――けんども、
今の俺に足りないモンっていったら『澪理以外に対する関心』――で、それから派生する形で『他人を勘定して行動する』能力っつーか意識。
…んで、それを養うにはとにかく世間に出るのが早道かと思ったワケ」

 

 澪理以外の思惑なんぞ、願いなんぞ、今でも正直どうでもいい――が、
澪理が人間の世界しゃかいで生きる以上、そしてその中で叶えたい願いがある以上、俺はそれに馴染まなくてはいけない。
でなければ、澪理の気持ちねがいを理解することなんてできないし、
そんな状態じゃあ手助けなんぞ夢のまた夢――…現に、その怠慢の結果がなワケだし…。

 誰も彼もが先の一件での自分の行動を顧みて、今の自分ができる最善――未来の最良を目指して日々もがいている。
そんな中で俺一人が高みの見物に洒落込んでいることが心苦しい――なんて、良心的な気持ちはない。
ただ、俺のプライドが、澪理を一番に支える存在であるという自負が――誰に劣ることも許さない。
…しかしまぁ……玄武の神子げんつきょうだいに劣ることは素直に認めよう――俺自身、認める部分もあるし…。

 

「でも……」

「なによ」

「…それ……誰かが手助けしていいもの――…かな」

「………まずは、よくない?それともなに?
ド初っ端アウェーマッハなアフリカ大陸で頑張れってか――まぁ、心皇ルールならそーでしょーけれどもー!」

 

 心皇とは、日本固有の術士の一様である陰陽師のうちの一流派――で、闇の陰陽師一門。
闇の――とか聞くと、悪いモノと思ってしまうが――てな件はこの際どーでもいい。
今一番重要なのは、この心皇一門つーのをスパルタ一直線のドS大師匠とうしゅが仕切ってるっつーこと。

 心皇一門の陰陽師、退魔士として、海慈は双子の妹やら弟弟子、更に澪理まで含めて、特に厳しく鍛えられた。
――それだけに、一般ふつうと感覚が多大にずれていて、
心皇の出でもない後輩に心皇流の特訓させては体を痛めつけ、課題を与えては心をへし折り――と、自覚なくスパルタ指導を行っていたワケで。
俗に言ういわゆるところの心皇脳で話を当たり前に進める海慈――だけに、少しばかりの心づけをして送り出さしりをけられる可能性は多分にある。

 ……こうして考えると俺が甘えてるわるいの?

 

「うんまぁ…心皇的にはそうだけど――俺、一応心皇じゃないしねぇ」

「……………」

 

 どこの誰が言ってんの――と、思わず真っ当すぎるツッコミが口から飛び出しそうになったが、なんとかそれは呑み込んだ。
それを口にして、わからないことばかりのアフリカに放り出される――のは正直勘弁願いたいし、
おそらくコレが海慈の「変わろう」としている部分なんだろう。――なら、その意を汲んで黙ってやるのが年上おとなの度量ってモンでしょーよ。

 

「…そんじゃ、交渉成立ってコトでいいワケ?」

「ソレが、澪一にとって『報酬』になるならね」

「おう、じゃあそういうことでた――…あ、退魔士としての任務しごと受けたら3割は俺の取り分な」

「……折半じゃないの?」

「まぁ俺は俺の・・金があれば足りるからな」

「…でも発展途上国ここらへんの報酬、雀の涙だよ?」

「………バイト?現地でアルバイトせんと退魔士さん、おまんま食えん感じなん??」

 

 …やっぱ旅人レベル1のド素人にアフリカ圏て難易度鬼畜過ぎない??