冷たい――というか、冷える。
際限なく熱が体から奪われていく感覚――…に、爬虫類の気持ちがわからんでもない気がしてくる。
体が冷えるということは、ここまで生命維持が難しくなるものなのか――てか、よくまぁ冬眠なんて荒業を決行したもんだ。

 …あ、そーいえば土の中とかって温度一定だから地上よかずっと暖かいのか。
ああそうか――…まぁココ、土の中じゃないから冷たいことには変わらんのですけどー。

 

「っ………」

 

 頭に奔る鈍い痛みに少しばかりイラっとする――が、それを秒で払って状況を確認する。
…その前に、まずは起き上がる――ってかハラが冷え続ける状況から脱する。
最強火力の移動大砲――なんて呼ばれた俺とはいえ、腹が冷え続ければそりゃあ痛くなる。
人外相手に最強無敵を謳ったところで、所詮この体は生物にんげんの域のモノ、だからな。
 

 あれやこれやと防備を固め、おつむを使って優位を掴んでいる――から、
たとえ人外、超常の力を持つ妖であろうと打倒することができるが、人間の素の強靭さちからなんぞ低級妖カテゴリーDすら劣るだろう。
てかだから・・・退魔士なんてモンがずぅーっと必要とされ続けてんだっつの!

 しかしまぁ、低級妖程度なら、訓練を受けた普通の人間・・・・・が武装整えて、かつ統率された徒党を組めばおそらく打倒は可能。
して、二倍くらいの数の差はひっくり返せる――まぁ、そこは指揮官のレベルが問題じゅうようになってくるわけだけれども。
――とはいえ、前提に「訓練を受けた」「武装を整えた」「統率された徒党チーム」「有能な指揮官」と
まぁずらっと普通じゃない前提が揃ってるだけに――やっぱり、普通の人間が超自然災害あやかしに抵抗するなんぞ、現実的な話じゃない。

  …できる最大限は――走って逃げる、じゃないかねぇー……。

 

「……………」

 

 ムクと体を起こして辺りを見渡す――と、目に入ってくるのは見慣れない石畳と石壁。
打放しコンクリート――なら、たまに目にすることがあるが、ゴツゴツとした石っつーより岩!な石畳に石壁なんてのは、現代じゃあそうお目にかからない。
つか、木造の温もりあるわびさびを好む日本きょくとうじゃあなおさらお目にかかることはない。
…ピッカピカに磨いた大理石の床壁ならこじゃんとありますけれども。

 ひとの体温を吸い上げておきながら、毛ほどの温もりもない石畳。
このまま座り込んでいては尻から冷えが回ってお腹を下すピーピー
そんな顛末を嫌って――じゃあなく、単に無駄な体力の消耗を避けて立ち上がる。
…ただ、冷えから逃れるそれしか状況は好転しなかったが。
 

 石で覆われた広間――を照らしているのは、木製の簡素なシャンデリア。
木の枠の上に火の灯ったロウソク――は乗っていないが、そこにあかりは灯っている。
理屈イミの分からない、ありえない状況――に、改めて自分が置かれている状況が普通まともじゃないんだと理解する。
…まぁそもそもの始まり・・・超常いじょうの極みなんだから当たり前なんだけど…。

 今が普通じゃない、マトモじゃない――のなら、この状況から脱する、もしくは打破するには、この状況を作っているモノと同じ「チカラ」が必要になる。
三人寄らば文殊の知恵――的に、力を合わせる他人だれかでもいれば話も変わってくるが、如何せん今の俺は孤高のソロプレーヤー。
兎にも角にも、何は無くとも必要なのは力――で、それは(体感で)ついさっきまで待て余すだけ持っていたモノ。
…まぁ、今現在も常人には抱えられないだけのモノは抱えているが………

 

「…繋がってはいる――…けど、供給されてない……なぁ…」

 

 俺の「力」の源は、生命力――もとい気力。
これは通常、生命力たいりょくの消耗を極限にまで抑える――簡単に言うと睡眠をとることである程度回復できる。
他にも、自然ごぎょうエネルギーちからが強いところで休息――とそれ自体を取り込むとか、あとは誰かから分けてもらう――てな回復方法もある。
だが後者二つは状況的に机上の空論だし、前者に関しては――まず前提が破綻している。
極限まで消耗を抑えても、それでやっとこ供給が追いつく――なんてまぁ超高燃費体質しような俺だけに。
…まぁその分、なのか保有現界タンクは人並み――いや、神子並み外れてるけど。

 人間――どころか、人外さえ超越する神子――の、並を超えはずれるほどの気力を保有できる俺。
しかしどーにもこーにも、生きているだけで生命力きりょくを常人の数倍の早さ消耗する運命たいしつだけに――消耗スピードはだれより速い。
本来神子サマは超低燃費体質しよう――の、はずなのにね!
……ま、消耗そこを獣神サマが、おつりが出るだけ補ってくれる――…わけなんだけれども。本来なら。

 本来なら、常に消耗している気力を賄う気力が、夕映から常に供給されている――ところ、
今はそれが途絶えて、少量ではあるがちょびちょびと気力が消耗し続けている。
このまま気力を消耗し続ければ、生命力きりょくが底をつくのは――…長く見積もって一週間。
…ただ、これからの道中が平坦な、気力を消費する場面がない――ってのが前提なだけに、
現実的には俺の寿命はもっと短くなるだろう。このままだと。

 

「(……神域どっかでニマニマしてんでしょーねぇ〜………)」

 

 俺は金獅子ノ神ゆえと契約する神子ではある――が、夕映にとって俺という存在は玩具れいりの付属品でしかなく、
また澪理おもちゃで遊ぶにあたって――世界に干渉するにあたって必要な巫女ツールであって、それ以上の価値イミはない。
…まぁ最近は、ノイ姐さんとか他獣神とか、あと神仏以下略ひっくるめて「オモチャ」に昇格した――…っぽいけど…。
……だからこそ、夕映からの支援は見込めない。
否応無く、しょうめつに向かって走るしかない俺の無力ぶざまな姿を、夕映は「愉しいおもしろい」と嗤っている――だろうから。
 

 意地しゅみの悪い夕映に鈍い頭痛が奔る――が、それはすぐに呑み込んだ。

 アイツの意地と趣味、そして始末の悪さなんぞは出会った時から知っている。
悪癖コレはどこの誰であろうが矯正できない夕映の絶対的個性――
――夕映が闘争と征服きんじしを冠すに至るモノであり、俺たち・・・にも通じる傲慢な王の顔。

 …まぁ早い話が「人の振り見て我が振り直せ――ができないんだから」ってハナシだ。
 

 今更悩んでも仕方がない――てか、どうもこうもない問題コトを頭の中から放り投げ、とりあえず今を見る。
ザラザラした石畳にゴツゴツした石壁――の中にあるのは、重く頑丈そうな金属製の扉。因みにコレ、一つしかない。
ということは、この部屋ひろまの出入り口はここ以外にない――…ということになる、が。

 

「……………」

 

 正直なところ、俺は結構な猪突猛進タイプだ。
生まれてこの方、大体のことは力尽くで解決してきた――だけに、
出たとこ勝負、というか、殴りながら考えればいいじゃない――的な思考回路のうみそで。

 体よく言うなら「案ずるより産むが易し」。
こう言うとなんか道理が通っている気もするが、そんなモンは運のいい考え無しバカ結果オーライあとづけだ。
だから運が悪ければ、しょうがいを突破できるだけのうんがなければ、考え無しバカは生き残れない――ってのが、本来の「道理」。
だからここは一考の余地がある――これ見よがしなでぐちに。
 

 取っ手に手をかけたの瞬間に感電――とか、扉を開けると同時に虚空に吸い込まれる――とか、
もしくは開けた瞬間にありとあらゆる迎撃かんげいを受ける――とか。
考えられる危険トラップはいくらでもある――が、その大体は「開ける」という行動を起点する。
なら、触れずにこの扉を開けることができれば――だいぶ、危険から距離を置く頃ができるだろう。
…ただ、んな初っ端から大歓迎・・・するぅ?という気楽な疑問は、脳裏をよぎってはいるが。

 つま先に気力を込め、テキトーな床を蹴る――と、ガコといって石畳が割れ、石の塊ができる。
…瞬間ふと、「足場が崩れるって可能性も――」と今更な懸念に冷や汗をかいたが、
見た通り感じた通りでここは地下――それも最下層、のようだった。

 冷静になって、慎重に行動した――つもりだったが、まだまだ冷静沈着には程遠いらしい。
こんな調子でここから脱出できるのか――てか生き抜くことができるのかさえ、ぶっちゃけ心配になってくる。

 …――まぁ、なにがなんでも生きて帰ってやるけどさ?

 危険を感じれば、怪しいと感じれば、それに近づくことは避ける――が、どうしても避けることのできない場面ってのはある。
ほらここ地下だからさ?階段は不可避でしょーよ、脱出するとなったら。

 扉は、少々消耗リスクが伴うものの、一発アウト、もしくはケガを負うくらいだったら――と、大体全部破壊して通過している。
まぁまぁ取り越し苦労――ただの扉を無駄にぶっ壊したけれども、絶妙に致死級トラップも混ざっていたからまぁ、ある意味で無駄じゃあなかった。
…いや寧ろ有意義だった思う。オープンザドアで火炎放射とか、毒矢射出とか――リビングアーマー出現とか。
ちょいちょい後の・・死亡フラグになりそうなトラップを回避できたのはよかったと思う。…そこまで含めて罠だったらもうどーしようもないけどな!

 トラップに次ぐトラップで、まぁトラップだらけのトラップカーニバル――ではあったものの、
ある意味で一番に不安に思っていたバケモノの襲撃には現状あっていない。
動く西洋甲冑――いわゆるリビングアーマーを見――はしたが、待ち構えていた扉ごと排除したからそれ自体との直接的な戦闘はない。
そしてそれもたった二件と、他のトラップと比べれば圧倒的に数が少なかった。
 

 この地下迷宮(仮)の主人の目的――要は俺をどーしたいんだかが、未だにわからない。
殺すつもりならぬるいし、嬲っているならいき過ぎている――…まぁ、嬲るつもりが殺りすぎちゃった☆
…みたいなおっそろしいヤツもいるだろうけれども!

 …ただまぁ、今回の首謀者はんな無邪気な考え無しおこさまじゃあまずない。
これは1から8くらいまでは理詰めでワナを設置して、9から10は感覚で抜け道アナを作っている――無悪意な策士おとな
…俺を殺したい、俺で遊んでいる――なんて仮説は、改めて考えてみるとただの自意識過剰かもしれない。
この迷宮カゴにおいて俺は脱走を試みるモブネズミ――首謀者プレーヤーにとってはゲーム上で自立して動くシンボルの一つでしかないのかも、だ。
………厳密ないのちじゃないとはいえ、肉体と戸籍と家族もいる俺を無価値に扱い過ぎじゃないです?

 失礼この上ない首謀者プレーヤー――に対して、出口を目の前にしてイライラがせりあがってくる。
ひとを殺しかけておきながら、一体どんな弁解をするのか――腹立たしさに口元を引きつらせながら、たったか地上に続くだろう階段を上っていく。
そうして目に入ってきたのはランプの明かりに照らされた木製の扉。
ああ、あれが出口か――と心の中で呟いて、寒くてじめっとした地下からおさらばしようとドアノブに手をかける――より先に、

 

「ッ――――!?!」

 

 何かが石壁を薙ぎ払い、その勢いのまま扉も両断する――横に。
もし俺が、扉の前に立っていたなら――間違いなく、俺の上半身と下半身は両断さようならだったろう。
ただ、咄嗟に階段うしろに倒れこんだことで、そうはならなかった――が、後頭部強打は痛い。階段石だからなお痛い!

 

「……」

 

 強打した頭をさすりながら上を見れば――そこにあるのは青い空。
毎日毎日飽きるほど見て、更に言うとたった数時間しか見ることができなかった――だけなのに、なんとも言い様なくこの青空に安堵してしまう。
…まったく全然、命の危機を脱したってわけでもないのにね!
 

 どーゆー設計コトやら後方――地下から重厚なゴゴゴ…という物々しい音が聞こえる。
「なんだ?」と思って耳を澄ませてみれば、なんとなし知覚する――水の音。
…なんかまぁよ―わからんけどこの迷宮(仮)、水責めにあってるらしいね?侵入者も、脱走者ももういないだろうにね??
 

 このまま流れ・・に身を任せれば、おそらく地下を満たし――てなお余る水によって外へと押し出されるだろう。
扉を薙ぎ払ったヤツが、相当の切れ者であるとする――のなら、ひとのタイミングで出ていくのは愚策かもしれない。
だが、頭よりも反射や感覚で戦ういきるヤツであったなら、自然ながれに身を任せるのは危険だろう。

 さて、どちらが俺にとって正しい選択か――と、問われれば、その答えは決まっている。
濡れネズミとか勘弁ですよ!!

 

「ぅおっ――とィ!」

 

 なによりまず、濡れることを嫌って地上そとへ飛び出せ――ば、当然のように出迎えてくれるのは豪速のなにか。
相変わらずそれが何かわからないが、それが危険なものであることもまた変わらない――から、解析りかいよりもまず回避が最優先。
とにかくぶった切りたいらしい誰かのなにか――を、スレスレのところでベリーロールたかとびの要領でかわす。
限界ギリギリのところでかわしただけに、着地までのラグは隙にまではならず、落ち着いて次の回避行動をとることができた――が、そっからはもう落ち着けなかった。

 

「(ぐぇええ…!)」

 

 俺を二度襲った何か――は、どうやらノコギリ的な刃を持つ片刃の大剣、のようだった。
して、それを揮っていたらしいのは、俺よりデカくて屈強な――見るからに乱暴、凶暴そうな黒髪の男。
白のワイシャツに色の褪せたジーパンを穿き、無造作な短い髪は男のワイルドさをより強調する――が、カーキー色のエプロンがまぁ違和感よいしごと
視線だけで人殺せそうなくらいの強面なのに、自然くさき相手に腕を揮う職人ガーデナー――なのに!
放つ拳は大剣はものより殺意が乗ってるってなんなんですかー!

 …てか!何気に物理最強神子いさみちゃん残像シルエット過るからなおさら怖いんですけどォー!!