「――さすが金獅子の神子様!
漁火の精鋭を集め挑んだのですが……ここまでコテンパンにされてしまうとは……」
頭を掻きながら苦笑いしてそう言うのは――鳥のような人、というのか、人のような鳥。
肌は白の羽に覆われ、腕は同じく白の翼で、足は水かきをもつ水鳥の足――だが、脚はすらりと伸びた人のソレ。
更に嘴――はあるが、それがついている顔は鳥の輪郭じゃあなく人のモノ。
ファンタジーで言うところの「鳥人」というのが今、俺の前でへこへこしている――プラス、さっき火球を放ってきた連中だった。
不意を突いて襲ってきた――にも関わらず、「さすが」と言ってよこすカモメっぽい鳥人。
自分たちの不敬をごまかすためにおべっかを並べている――わけじゃあない。
腹を見せて、おだてて持ち上げて、夕映からの評価を上げようって魂胆――と、式神を超える神子への畏怖をごまかすため。
…ごまかしきれちゃいない――が、それも毎度、だった。
「…次にちょーせんする時は、もうだいぶ、連携に気を配っていただけるとー」
「はは…は……連携、ですかぁ〜…。
………正直、訓練さえまともにやらない気まぐれ集団ですからなぁー……」
「……あー…そういう生き物、なのね…」
「そう…ですねぇ…。それ故の個の強さ――…というのが、海鳥の特色でもありますから…」
徒党を組んで――…いや、厳密に言うと単に集団で俺を襲撃したのは、
カモメやらアホウドリやらといった「海鳥」風の姿をした鳥人たち――漁火一族と呼ばれる獣神式神の一派。
コロニーは作っても、各巣に連帯感はない――群れても馴れ合いはしない。
それが群の中で生き延びる命を成す「核」――だというなら、それは尊重するべきだった。
至上の神たる獣神の加護を受ける精霊――である獣神式神は、
主神と仰ぐ獣神に姿が寄り、その生物の影響を――というか「気質」のようなものを強く引く。
自然の具現であるからこその弊害――であり、特色。
いわゆる「長所は短所、短所は長所」というやつで、欠点にもなりえるが、同時に最大の武器にもなりえる。
…だから、漁火のまとまりのなさっていうのは、このまま許容されて、更に個の強さに磨きをかけていくことが、
ある意味で「集団の強さ」の強化につながる――…んだろうが、軍師相手じゃあ、全然強みにならんだろうなぁ……。
「(…まぁ……無駄な心配、なんだが…)」
最後に「ありがとうございました」と模擬戦の礼を言い、鳥人たちは海へ向かって――よろよろしながらも飛び立つ。
生物のカモメが助け合う――なんてことはない、が、だからといって漁火一族もまた助け合わない、なんてことはない。
彼らには人間に勝るとも劣らない知性と理性がある――んだから、
同じ一族を冠し、同じ場所で暮らす同胞を見捨てる、なんてことはさすがにしない。
…ただまぁ、「そういう」掟ってのか、ルール――教育方針がある一族は別だけども。
俺にコテンパンに伸され、ボロボロになった漁火の精鋭たちは、互いに肩を貸しあいながら、
先導の鳥人の後に続いて海の向こうへと飛び立ち――ふとしたところで、強い光と一緒にパッと消える。
漁火一族に瞬間移動――空間転移の能力はない、ことを考えると、これはおそらく游鴎ノ神の優しさだろう。
「――らしくなく、難しい顔をしているじゃないか」
気配なく、そろりと姿を見せたのは――金色の、鬣のないライオン。
その風格は、位を持たない獣神なんぞなら容易に圧倒するだろう圧がある――
――が、彼女は金獅子ノ神の子神という立場の、数多いる夕映の妻――の筆頭。
獣神にほど近い存在ではあるが、厳密には獣神じゃない存在――なんだけれども、夕映は「形式上はな」と言う。
…うん。「そうなんだろーなー」と思ってるけどもね。
金獅子ノ神の子神――の数は、百にも及ぶ。
ただ夕映曰く、金獅子ノ神の子神は一人だけ――で、その他は共有愛人、とかいう。
…して、その愛人の共有相手――というのが、
「……姐さんこそどしたの。島に来るなんて珍しい…」
「どうした――ということはないよ。ただ可愛い神子の様子を見に来たというだけさ」
「……息子…ねぇ……」
「なんだい?私に息子扱いされるのはイヤかい?」
「いや…そーゆーことじゃー…ない、けど……。………息子の、寝込み襲った――の?」
「ああ――それとこれとは別のハナシだよ」
「…」
平然と、1ミリたりとも表情を変えずに身勝手――というか、俺様ルールで話を完結させる姐さん――ことノイ姐さん。
人の常識的に、突っ込みたいところはまぁあるけれど、相手は獣神に連なるモノ――な上に、
その中でも特別「ゴーイングマイウェイ」な四皇の眷属だけに、抗議するだけ無駄。
…大体、見掛けしか人間じゃあない俺が「人の常識」持ち出すのも、そもそもオカシイしねぇ〜……。
「――それで?私の可愛い息子は一体何を悩んでいるのかな?」
「…」
自分の言葉を取り下げるつもりのない姐さんは、
余裕をたたえた優雅な笑みを浮かべて「どうした」と問う――息子が答えたくないと分かった上で。
…嫌なとこだけ似ている金獅子夫婦に鈍い頭痛を覚えて――沈黙した。
夕映曰く、本人が望むなら第三位級の獣神にあった――というノイ姐さん。
ただそれをノイ姐さん自身が望まなかったから、金獅子ノ神の子神という立場に置いている――
――だけで、姐さんさえ望めば八双交代は秒で決行案件、だそうで。
…そんなノイ姐さんに反抗決め込む――とか、正式な神子じゃない俺がやっていいことじゃあない――…んだけれども、
それを他でもないノイ姐さんが容認している――から、最終的には問題ないのよねぇー…。
「…あの、さぁ――おかーさん?」
「おや、なんだい?」
「……息子、ココから旅立ちたいんだけど」
ここしばらく、胸にため込んでいた願いを、なんとなし口にする。
おそらく、夕映にしても、ノイ姐さんにしても、俺が獣神の神域で出ていくこと――自体には、可否すらないだろう。
ただその目的が「澪理のそばに――」となったら、間違いなく夕映は「否」と言うだろうし、姐さんも「考え直せ」と――やんわり「否」を出すだろう。
…まぁ、だから――ってわけじゃないが、そういうつもりでココを出たいワケじゃない、んだけども。
ネコ科には珍しい社会性という習性を持つライオンの姿を持つ金獅子ノ神――の、子神の筆頭であるノイ姐さん。
集団で子育てを行うライオンを模すだけに、子育てはお手の物――…と思いきや、「子育て経験なし」との自己申告。
――ただ、「後輩の教育については定評があるよ?」とのこと。……いや、聞いてない聞いてない。
――とにもかくにも、余裕をたたえた経験豊富な優雅なお姉様――なノイ姐さんだけれども、
こと子育て――特に息子の教育については素人に等しい、らしい。
さて、そんな姐さんに、俺の考えが読めるのか――といえば、そりゃ読める。
何度も言うようだが、姐さんは子神だけれども獣神相当なの。
だから俺のちみっちゃい頭の中なんぞ――筒抜け筒抜けお獅子が通るなの。たぶん。
「知っているかい?」
「ん?」
「ライオンの息子が縄張りを離れるということは、
一人前のオスと認められる――と同時に、群れの部外者になるということなんだよ?」
「………いや、そこでリアルお獅子論出されても……。
…てかそれ言い出したら夕映のハーレム自体そもそも規格外でしょ。
姐さんオス換算したって雌雄比『99:2』ってなに?コレもうお獅子っていうよりセイウチよ??」
「うん、それはまったく以てその通り――なのだけれど、私が言いたいのはそういうことではなくてね?」
「ね?」
「……」
リアルお獅子習性――は、ものの例えであって、ノイ姐さんが言いたいこと――じゃあないと言う。
じゃあ何が言いたいの――と、問い返したけれども、それに対するノイ姐さんからのお答えはない。
そこは自分で気づくべきところ――ってことなんだろうけれど、も――
「獅子は我が子を千尋の谷に落とす――てなァ?」
「ぐお!!?」
「あ」
不意に腰から全身に奔った強烈な衝撃。
半身不随も止む無し級の衝撃に「なんじゃい?!」と疑問どころか驚きすら覚える暇なく俺の体はぶっ飛び――
――なんか見覚えのある強い光に突っ込んでいた。
――あ、因みに「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」は架空のお話。
ここで言う「獅子」っつーのは仏教由来の架空の生き物――であって、リアルお獅子ではないのです。
てかリアルお獅子は谷に落ちた我が子を、群れで協力して助けるんだそうな――
――ま、そんなこと獣神と眷属には関係ないけどねー!
|