ガスト・サブナーク――今となっては知っている吸血鬼モノも少ないが、
学校の科目に「吸血鬼史」なんてのがあったなら、確実にテストの問題に絡むだろう大吸血鬼だ。

 ただ、悪名の方で名を上げた吸血鬼界の――…もっと厳密に言うと、黒ノ一族にとっての「恥」だが。

 

「(……ただまぁ…あの諦めの悪さタフネスは………ある意味感服するが…)」

 

 白の揺り籠クッラビアンコ島で起きた魔孔の暴発――は、既にその全ての問題コトが沈静化している。
白銀アルジェント山から噴き出した魔物魔獣の大群は、およそ全てがヴィーたちの手によって討伐され、
わずかにれた連中も、ニアたちによって打倒され――島民の一人も傷つけることはなかった。

 そして、問題の大本である大魔孔の封鎖も――

 

「………………その姿だったら……もう一足掻き、できたかな?」

「………足掻いたところで、ロクな結果に行き着いてねーよ」

 

 俺の否定に、ニアは「そだねー」と肯定を口にして軽く笑う。
自分の言い分を肯定された――とはいえ、同時に自分の敗北を当たり前に肯定されたんだから面白くはなかった。
 

 いつかの時、もし俺が白狼の力を揮えた――…としても、結局モノを言っただろうは地力の差。
如何ほど足掻いたところで、俺が・・行き着く顛末に――変わりはなかった、だろう。
…ただまぁ………この顛末を、不幸だとみがってに嘆くひていする気はないが。

 白狼曰く、「先祖あるじさまの血が白狼の力に反応しただけ」――らしい、この髪の変色は。
一時的な変化だと白狼は言うが、ことが終息してから早数時間が経過している――にも関わらず、俺の姿に変化はない。
黒かった俺の髪は未だに白色――先代しろのしそを思わせるフロスティーブルーはくぎんだった。
 

 俺を、真祖に逆らったバカとするなら、ガストは白ノ始祖に逆らったアホ。
…いや、今となっては――白狼ノ神に牙を向けた不敬者おおばかか。
一度目はぐうの音を出す間もない・・・・・・ほど呆気なく、二度目は器とその仲間ファミリーとの死闘の末に、そして三度目は後任しんまい神子に呆気なく。
………ホント、アイツの諦めの悪さにはある意味感心するが…まぁ……懲りねーっつーか…そも運が悪すぎるっつーか……なぁー…。

 黒ノ一族の権威を示すため、白ノ始祖の「庭」を荒らしたガスト。
当然、その暴挙は白ノ始祖の怒りを買い、戦いに発展する――ことなく、ガストはモノの一瞬で氷漬けにされた。……白狼談、ではあるが。

 黒ノ始祖じっけいへの義理立てに、命を奪われることなく、ただ氷漬けにされたガスト――は、
今から100年ほど前に氷結の呪縛を打ち破り、白ノ始祖への報復に、島の蹂躙を、そして白ノ一族の抹殺を目論んだ――ものの、
その野望は白ノ始祖の器たちの手によって打ち砕かれ、魔法世界まかいにおいて最固と名高い城塞監獄・アバドンへ投獄された。
…そして今回は、魔孔の暴発に乗じて脱獄し、己が野望を果たさんと地上に降り立った――
…わけだが、今はもうまた・・氷漬けにされた挙句、アバドンへ再度投獄されていた。

 ……もーさすがに諦めるだろ……。

 

「(……仮に諦めなくとも、ココに湧いて出ることはしばらくねーだろーが…)」

 

 また、何かの拍子で、ガストが氷と最固の牢獄から逃れた――としても、
ヤツがこの島に現れることは、もうしばらくの間はないだろう。

 魔界と地上しまを繋ぐ魔孔の出入り口――は現在、白狼ノ神の神気を孕む氷によって完璧むちゃくちゃに封鎖されている。
並の魔物じゃあこれを打ち砕くなんぞ――てな前に、近づくことさえできないシロモノだ。
それを考えれば、白の揺り籠クッラビアンコ島の魔孔とつながるアバドンは、逃げ道あなを一つ塞がれたことによってより堅牢な監獄に――
…いや、てかコレ………魔界あっちから苦情くるんじゃねーか…?

 

「(……まぁ…魔界あっち現状てんまつも、知っとかにゃいかんのだけど……)」

 

 俺が引き起こした「抗争」は、主に現世ちじょうに生きる被害体ヴァンピールの立場、
そして純血統ヴァンパイアの意識を変えるためのモノだった。
――だがそれには、魔界に暮らす多くのヴァンピールどうほうたちのちからも、借りていた。
…そうでもしなけりゃ、反逆を謡うだけのちからさえ、用意できなかったからな…。

 ヴァンパイアに敗北したヴァンピールがたどる顛末は悲惨なモノだろう――と思っていた。
被害体と括られ、「種族」としての地位を確立できていない――地上、に関しては。
だから「ハーフヴァンパイア」として、純血統ヴァンパイアとは別個の「種族」として、
社会的な役割ポジションを確立していた魔界のヴァンピールれんちゅうのことは、正直なところ…それほど心配していなかった。
 

 大昔いつかの時代、白と黒の一族から「雑種」と邪険にされた灰ノ・・一族――は、彼らの冷遇から逃れるように魔界へ降りた。
そしてその時、一部の被害体たちも彼らと共に魔界へと降り――彼らと共に「ハーフヴァンパイア」として、新たなみちを歩み始めたという。

 …混ざっても純血――なだけに、灰ノ一族の賢さに間違いはなく、またその命も長命。
それだけに志半ばで主導者が逝去――なんて挫折もなく、
白黒の混血と人間と吸血鬼の混血は、「ハーフヴァンパイア」として魔界の経済を回す労働力はぐるまの一つに数えられるまでに至り、
原種である白黒の一族ヴァンパイアであろうと安易には手を出せないだけの一派そんざいになっていた。

 ――…まぁ、とはいえそれこそ純血統・・・だけに、
灰ノ一族の子孫こまご世代が吸血鬼特有の傲慢あくへき発露で圧政布いて、クーデター勃発――…なんてすったもんだもあったりして。
顛末だけ聞けば「良い話」だが、その道のりは0から10まで順風満帆だったわけじゃあない――上に、
今でも「起こる」ことだけに、アイツらも協力してくれたワケなんだが……。

 

「…ニア」

「んー?」

「…下は、どーなってる」

「んー…あー………ぅん…………どーもなってない、かな〜…」

「………」

「…なんというか…魔界あっちは昔気質…旧時代的だからかなぁ〜……クーデター程度屁でもないっていうか……」

「………たっくましーなぁー…」

 

 拍子抜け――だが、ありがたいことに、魔界のハーフヴァンパイアどうほうたちは相変わらず・・・・・らしい。
そのたくましさには感心するし、感謝もする――が、その鈍感・・さには、少しばかり思うところがある。
…まぁ、それを言い出すと、魔界に暮らすすべての種族そんざいに疑問を呈する――っつーかもう魔界の在り方自体に文句をつけるのと同義なんだが…。

 魔法や魔物、そして悪魔やら神やら、超自然的存在が前提としてあたりまえに存在する――魔法世界。
超自然的な要素モノに依存しているから――なのか、
それとも未だピラミッドせかいの頂点に人類が到達していないから――なのか、
魔法世界の在り方は地上に比べてずっと非倫理的――旧時代的だ。
未だ武力を売り物にする者がいる、今だ他人の命を奪うことを生業にする者がいる――現代ちじょうでは、とうに廃れた文化しごとだってのに。
…ただ、だからこその逞しさであり、カラッとした――現代的な陰湿さのない社会せかいが成立しているわけだが…。

 

「………」

「…呼ばれるまで、ここにいれば?」

「…それも、どーなんだよ…」

「問題ないと思うけど?…大体、被害者・・・はコッチ――魔孔の暴発はお互い様だけど、
ガストアレの脱獄はアバドンあっちの不手際以外の何でもないからね?」

「まぁ……そりゃそーだが…」

「それに、地下の一画が凍結した・・・・――とはいえ、
それと一緒に獄孔まで塞がったんだから『ありがとうございます!』って感謝されていいくらいだよ」

「…」

「……でも、獄孔まで塞がちゃったら……地獄送りの業務に支障が出るんじゃ?」

「…今、そんな業務ことしてる余裕、あると思う?」

「………ナイですねー」

 

 白の揺り籠クッラビアンコ島にある魔孔から、魔界へと降りた先にある城塞監獄・アバドン――は、
そもそものそもそもは、囚人を捕らえ、罰する監獄じゃあなく、暴虐と愉悦を極めた白ノ始祖の居城――だった。
ただそれも、今となってはウン千年と昔の話――だけに、それを事実として知っているヤツなんぞ、既に0.0…の割合なんだが。

 元は【白銀魔城・アルジェント城】と呼ばれた暴虐と愉悦の城も、
今や厳罰と絶望の監獄――アバドンとしてしか、魔界最固の城塞監獄――としか、認知されていない。
それだけに収容される囚人は極悪非道の犯罪者ばかり。
脱獄などありえない――から、それが成立してるってのに、それを許したとなっては「最固」の名を揺るがす大問題。
…まぁもう実際、確実に一人は脱獄してるんだが、それ以上、をおかさないためにも、
今頃アバドンは上を下への大騒ぎ――囚人の確認やら警備の強化やらで、通常業務に割く時間も人手よゆうもないだろう。

 

「……そーゆー意味では…フーさんが今アバドンに行くのは迷惑、かもねぇ〜」

「…苦情を言いに行くわけじゃあねーけど………」

「…ん?どーかしたの?」

「……いや…、…今更ながら俺……あっちの刑法ルール的には犯罪者アウトだろ…?」

 

 旧時代的な魔法世界――ではあるが、無秩序な、法整備のされていない無法地帯――世紀末、な社会せかいじゃあない。
生きるために法を犯す者が多い――が、法が無力、無価値というわけじゃない。法を犯せば逮捕されるし、罰も当然下される。
ただ、そのリスクを犯すだけのリターンがあったり、取り締まる側の武力ちからが劣っていたり――
それらの慢性化から「罪を犯す」という行為自体への抵抗感や罪悪感が薄れているという問題ことがらから、法律の存在は抑止力になりえていないが。

 群衆を煽り、暴動に奔らせた扇動者おれ――は、どちらの法律から考えても犯罪者ざいにんだ。
仮に、その罪状が成立しなくとも、俺は俺の意思を以て他者どうぞくを手にかけている――
三流あたまはわるいが、純血統のりせいある吸血鬼どうほうを。

 理性のない吸血鬼どうほうは、害獣まものとしてその討伐が許される。
だが、理性ある吸血鬼の、吸血鬼による殺害はただの同族殺し――重罪を貸されるに値する犯罪だ。
…なら俺は、同族殺しの罪を数多に課される――死刑だろうと贖えたりないほどの大罪人。
…幸か不幸か、地上こっちに関してはババアしんそが吸血鬼の問題とか線を引いて、内々で処理・・したんだろうが………。

 

「……あーうん…。
それなんだけど…………手打ち・・・ってことで処理済み、なんだよねぇ〜…真祖サマ権限で…」

「……」

「…ま、そこは温情とふふくに思うこともないんじゃない?
100年の就寝・・刑に、罰金として全財産没収――…………ん…?いやコレ、冷静に考えたらけい重くない??」

「「……」」

 

 魔界、そして吸血鬼という種族――を考えると、白狼の言い分はそこまで言い過ぎ、でもない。
…とはいえ、長命な吸血鬼に100年の就寝・・刑なんぞ、寿命を100年分浪費する程度、無害に等しい――
――し、なおかつただ寝ているだけで、実刑として労働したわけでも、呵責に苦しんだわけでもない。
…まぁ、全財産の没収はアレではあったが………その先が先だけに苦い思いはなかった。

 事務的に聞けば、白狼の言い分は間違ってはいない――が、当人おれの実感としてはやはり、温情とふふくに思う。
…ただ、重罪人として監獄の中で生涯、もしくは数百年を生きるしか・・・・・できない日々――…を思えば、
たとえ不服であったとしても、ババアの温情はんだんには感謝せざるを得ないが……。

 

「――まぁとにかく!アバドンからお呼びがかかるまではココでまーったり――労働してなよ☆」

「……」

人造人間あのこたちに悪気はないんだよ――ただ、思考に柔軟性がないだけで!」

「………」

 

 「テヘ」とウィンクして言って寄越すニア――に、若干眉間にしわが寄る。
限りある戦力で、島民の守護と、ヴィーたちの討ち漏らしの討伐という二つの役割を果たしてくれたニア――には、感謝している。
持てる力の全てを揮って、ニアは自分の役目を果たしてくれた。
それはそう――…なんだが、その前に・・・・、できたことがあったんじゃなかろうか――と、少しばかり思うわけで。

 …ただまぁ……「ソレ」を要求するとなると、建物の破壊を容認するよりも
人道に外れたことを容認することになる――…んだから、これは呑み込むしかない身勝手だ。
人造人間アボォルト ドールの精度を上げろ――なんざ、地上このじだいじゃあ口が裂けても……いや、時代も世界とちも関係なく言えねーわ。非人道的こんなこと。

 

「………はぁ…いつになったら戻んだよ…コレ……」

「……………………歌でも歌ってみる?文系くろ的に」

「…テキトーにもほどあんだろ…」

「……ってゆーか、ホントに戻るのかなぁ――ま!俺的にはお揃い感あって嬉――って!なんで幻術でわざわざ戻すの!」

「あン?元タメの現ゾンビ中年とお揃いとか寒イボもんだってんだ」

「ちょ?!中年じゃないし!てかゾンビでもないし!
オレ列記とした上級死霊リッチだから!完璧不老のほぼ不死!永遠のニアお兄――ぐえふ!!

「――寝てろ」

 

 学生時代いつかの調子で煩わしく絡んでくるニア――のデコに、
気力を込めたデコピンを放てば、それを受けたニアは言葉になっていない叫びをあげてその場に倒れる。

 魔力をまとわせたデコピンじゃ、上級死霊リッチであるニアを気絶させるなんぞできない――
――んだが、生命力きりょくともなれば死霊ニアには効果絶大らしい。

 

「……別に寝なくてもへーきなのに」

「…体力的には――な」

 

 床の上で目を回しているニアを適当なソファの上に転がし、
俺は部屋を――夜明けさいごまで戦いづつけてくれた仲間たちが眠る部屋を出た。

 …白狼の指摘通り、死霊ニアに睡眠は必要ない――が、まったく不要というわけでもない。
死霊だろうと吸血鬼だろうと神だろうと、脳内の情報整理の時間は必要だ。
そしてその作業に一番適しているのが睡眠――である以上、ニアには寝てもらわなくては困る。
これからコイツには、擦り切れるほど頭を使ってもらわなきゃならねーんだからな。

 

「……お前だけが行っても、気を使ってやりにくい――…と思うんだけどね」

「そりゃどーだかな。まともな重機もないド田舎の復興作業だ。馬鹿力に勝るモンはねーよ」

「…ああそう。…じゃあ俺は馬鹿力・・・天候くもでも弄るよ――…ついでに荷車ソリでも引く?」

「……………俺が言うことじゃねーが………お前、獣神としてのプライドやらどこ行ったよ…」

「…はぁ?何言ってんのお前――というか勝手に獣神おれたち矜持プライド、捏造しないでくれる?」

「あ゛?どこもなにも捏造じゃねーだろ。神子以外だれかのために力を使わな――」

「――だから、だっての」

 

 ………。

 …………。

 ……………。

 

「…てめぇ……身勝手が過ぎんだろ…」

「…獣神かみさま相手に何言ってんの」

「……」

 

 平然と、言って寄越す白狼に、毎度よろしくイラっとする――が、反論のしようがないから黙るしかない。

 「神」様というのは元来、命を翻弄し、魂を弄ぶ存在モノ
その格やら権能やらに差があったとしても、基本的な本質コトは変わらない。
神様ってのは身勝手で当たり前のモノ――慈悲も、支援も、そして試練も困難も、神様が誰かに与える全ては「自分のため」。
…だから、それを与えられた側は、たとえそれが神様の利己的みがって支援ギフトだとしても――

 

「はぁー……ったく、キリキリ働けよ――ルジート」

「………調子乗んなっ」

「ッで!」