フェガリにを吸い上げられた――のと同時に、どういうわけだか逆流してきた記憶じょうほう
知った表情カオ――だけれどよりも明らかに成長した姿で、
自身の結末おわりを、その先のみらいを愛おしんでいたのは――麒麟の神子れいり

 利己的かつ、傲慢で強欲な澪理――ではあるけれど、ソレ・・は文字通りであっても、一般的な印象・・とは在り方が違う。
澪理の利己とは「甘さ」。そして傲慢とは「優しさ」で、強欲とは「博愛」。
名前どころか顔も知らない他人だれかであっても悲しませたくない――それは人の身には過ぎた願い。
でも、神子にはそれを現実のモノにするだけの力がある――…とはいえ、その願いは神子に相応しくない――あまりにも人間的すぎる・・・・・・願い。
だから澪理は自分の願いを利己だと、傲慢だと言う――…「あの澪理かのじょ」のように。

 

「(アレが……『澪理』であることは間違いないけど――)」

 

 大人になっせいちょうしていたけれど、あれは間違いなく澪理だった。
そして、その在り方――…というのか生き方というのか、そういうものも俺の知っている澪理と同じだった。
…口調や態度のふてぶてしさは、今の澪理には印象の薄いモノだけれど、長く、長く生き続ければ――多分ああ・・なる気はする。
…だからやっぱり――

 

「――ぉんやまぁ、わざわざだねぇ〜」

 

 主不在の永久ノ魔女の書斎――の、デスクの上にフワフワと浮いているのは真白な小獏。
自分の思惑通りに事が進んで愉しいのか、それとも無様に動揺している滑稽な俺の姿を愉しんでいるのか――
――…いずれにせよ、あの顔に浮かんている笑みは性質の悪いモノだろう。

 ニヤニヤと、意地の悪い笑みを浮かべ、俺を見下ろす夢獏ノ神――オパール様に、不快感のようなものを覚えながらも「アレは」と問う。
アレは夢が現なにか、アレはどういう意図コトなのか――…正直、まともな答えが返ってくるとは思っていない。
…でも、尋ねずにはいられなかった――…状況が、状況だけに…。

 

「んん〜アレはホントにあった事。ただそれが、ココ・・じゃあなかったってだけで――記述あった通りサ♪」

 

 嗤って、軽く言うオパール様――に、ゾワリと氷点の怒りが湧く。
…でも確かに、あの澪理・・・・の選択は「麒麟」としては愚策――合理的じゃなかった。

 取捨選択――余計なモノを切り捨て、まかないきれるの最大限を救えば、四皇の神子を犠牲にしなくとも「あの世界」は終わらなかった。
有象無象おおくのいのちを巻き込んだ、大きな悲劇は生んでしまう――…けれど、その先に華やかなエンディングみらいはあったはず。
…でも、四皇の神子を失った世界に、華やかな未来ハッピーエンドは訪れない。
待っているのは緩やかな衰退――バッドでわるくはないけれど、ハッピーでよくもない――ただのエンドおわり
……一応、そこまので計算をするための「知識」は神子にはないけれど――…そもそも自分の価値を見誤っていた澪理の選択は愚か、ではあった。

 結果的に、「世界」がしょーもない結末に至る原因となってしまった澪理かのじょ――だけれど、その生き方やさしさを嗤うことは許されない。
目先の欲に囚われた、大局を見ていなかった――人間的すぎた・・・・・・
それは確かな事実で、神子れいりにとって間違いだった――けれど、その気高やさしさは、非難さわらわれるモノなんかじゃない。

 だから――

 

「――」

「アハハっ、大局を見なよ?ココで、お前が暴れたら――どーなっちゃうカナ?イロイロと、さ♪」

 

 からかうような――ではなく、確実に俺を見下し笑うオパール様。
…でも、それに対して怒りはない。だってコレは否定のしようのない俺の・・落ち度。
ここで吠えたところで意味はない上に、後のことを考えれば無駄としか言いようのない怒りコトに、大事な力を割こうとしたんだから。
…そういう意味では、オパール様には感謝するべきだろう――…ムカつきはしたけれど。

 

「…どっちが先――…なんですか」

「さぁて、どっちだったかなぁ〜。山盛り廻りすぎてもう順番とかあやふやなんだよねー」

 

 交わることのない世界に、後も先もない――けれど、世界ものがたりには前と後がある。
偉大な作家の作品が、後世の作家たちの作品に多大な影響を与えた――的なことで、物語せかい完結せいりつには時系列がある。
でもそれは、図書館あまたのせかいの管理人である獣神と、その神子――夢幻図書館の司書・・しか、認知することのできない事柄だ。

 司書でなければ――夢幻図書館に戻らなければ、神子であっても認知できない情報じけいれつ
そしてそれは、獣神であってもある意味・・・・同じ。
正確な時系列じょうほうは、夢幻図書館あっちに戻らなくては収集できない――…でも、あっちに戻るということは――

 

「さて、『フェガリ・プレヴェール』はどっちの付属品――なんだろうねぇ〜?」

 

 また、ニヤニヤと笑いながらオパール様は楽し気に言う――知っていても、絶対に答えないだろう問いコトを。

 …厳密なところ、この世界いまあの世界いつかの時系列なんて、今俺が前にしている課題もんだいにはまったく関係ない。
ない――けれど、このタイミングであの事実きろくが明らかになった、ということに一抹の不安がよぎっている。
あれは警告なのか、それとも――悪ふざけ、なのかと。

 …単純に、オパール様の性格を考えれば後者と受け取るけれど――
…世界の滅亡さえ娯楽とするオパール様だけに、前者を経ての後者――っていう可能性もある。多大に。
世界の管理者である獣神がまさか――と思いたいけれど、未遂とはいえ前例がある以上、「まさか」じゃすまない。
「もしかして」と警戒すかんがえる必要がある――…んだけれど、そこまで考えて立ち回れるだけの賢さと実力と――手駒が、俺にはなかった。

 

 ここは何処か――ここは世界最強の魔法学校と呼ばれる【クァルトゥム魔法学校】。
魔法の三大流派が共同出資して、【西方灰境機関】手動の元設立された、受け入れの水準はばひろい――
――悪く言えば雑多、良く言えば多様性を持つ、「魔法学校」としては特異な学校ところだ。
…まぁ、なによりこの学校が有力・・なのは裏理事長――として、真祖さまが口出ししてるからなんんだけどね。
 

 約束された「才能」を持たない――血統が悪い、一般の出、な生徒が多いけれど、黒と白の一族・・が監督役として実権を握り、
有能な教師と、長い歴史の中で改新・・を続けた多様なカリキュラム――によって、
クァルトゥム魔法学校は歴史の古い名門校押しのけ「最強」の名を冠している。
…そもそもは「凡才の掃き溜め」として開校せつりつされたのにね。

 元は非才の受け口――優秀な魔法使いを集中的に育てるために、
篩い落とした余計な存在せいと就学けんりをまかなうために開校されたクァルトゥム魔法学校――は、未だにその在り方を変えてはいない。
血統の良い魔法使いの家の出の子供はほぼほぼすべて各家の流派の名門に流れ、クァルトゥムに入学するのは残った子供。
もし良家から子供せいと流れはいってくるとすれば――それはよっぽどの出来損ないか、相当当人・・の我が強いかの二択。
入学先は子供とうにんではなく親が決めるもの――っていうのが魔法使いにとっては常識、だからねぇ…。
 

 古き名門を表風いっぱんてきに表現するなら――セレブ校。マイナーな専門校を表現するなら――エリート校。
そしてクァルトゥムを表風いっぱんてきに言うなら――平凡なマンモス校。
…マンモス校の時点で平凡じゃないけど、一般的な――専門分野を持たない学校、って表現かんじ
…ただそれは雰囲気に限った話で、クァルトゥムにも専攻学科はあるけどね?

 魔法学校としては群を抜いて、飛び切りのマンモス校であるクァルトゥムは、その校舎――はもちろんのこと、敷地というのも広い。
子供の足でその端から端まで歩こうものなら3〜4時間はかかる――平坦、ならね。
森含み、川含み、丘やらまで含むクァルトゥムの敷地は本当に広大――…だけれど、その全てを有用に活用できているかといえば、そうでもない。
遊ばせている――「自然保護」にしか役立っていない場所もある。
…っていうか、校舎からそもそも出ないんだよね。実地訓練――飛行訓練でもない限り。
 

 校舎から、およそ4kmほど離れた森の中――に、ポツリと建っているのは森になじむ木造の小屋。
校舎から真面目に歩けば1時間強かかる場所――だけれど、魔法を使った機動力・・・があれば、その距離はさほど遠いものじゃない。
――ただ、見つけられるかは当人の才能次第だけど。

 

「なんですかぁー…。
シュテル先生は連日の徹夜でぇー――…生きてるが不思議なくらい消耗してるんですけどォー」

 

 小屋の中に足を踏み入れる――と、その中は書類やら本やらが散乱し、なんの栄養剤ビンやらゴミまでもがあちこちに放置されている始末。
挙句、ソファーの上には死体が――と勘違いしてしまうほどに顔色の悪いシュテル。
…当人の主張通り、魔孔の調査に全力を尽くしていてつやつづきだった――んだろう。

 

「……なんで報せいわなかったの」

「……………聞くまでも……ない、でしょぉー……」

「…」

 

 俺がフェガリについて行くことを決めた――いや、フェガリが復活する前からすでに魔孔の暴走について知っていただろうシュテル。
なのにシュテルは俺に対してその情報を1ミリたりとも漏らさなかった。
…まぁ、顔を合わせる時間も少なかった…んだけどさ。澪理にかまってたからぶつりてきに

 魔孔の問題は間違いなく犠牲――最悪の場合には死者を出す可能性を孕んでいる。
…とはいえ相手は他人に興味のないシュテル――だけれど、頼まれ仕事・・となれば、シュテルはきっちりと報酬分だけ取り組み、相応の成果を上げる。
そして、楽に成果を上げる手段――を見つけることに余念がない。そして何事、大体の最適解――一番手っ取り早いは、獣神おれを利用すること。
…なのに、それをしなかったということは――…誰かにそれを止められたから、だろう。

 

「……最終的に、Xデーってヤツに目星はついたの…」

「…ついた……よぉ〜…。………ま…ついたところで――…規模は変わんないんだけど…さぁー…」

「…規模は、どーでもいいんだよ――…時間タイミングさえ分かれば対処できる程度でしょ。何所も」

「…」

「問題はココと――…いや、ウチはまぁこの際いいとして………も……ココが、なぁ……」

 

 問題ことが起きるタイミングが分かれば、それに向けて対策も立てられる。
だから多少戦力に不安があったとしても、ちゃんと対策を練って、それに向けての準備をすれば、なんとかできる――はず。
…でも、白ノ揺籠島ウチクァルトゥム魔法学校ココ魔孔もんだい規模ぜんていが違う。
他所の魔孔もんだいが一つだとすれば、ウチとココはその倍――…単純に考えて二倍の魔物もんだいが噴き出す可能性がある、ということ。
…変な話、白ノ揺籠島ウチは仮に死者が出ても、獣神おれからすれば大した問題じゃないけど――

 

「…ルー、の…心配、も…尤もな規模……だけど、…ココに、何人神子サマがいらっしゃるかご存じでございますぅー…?」

「………は?」

「…帰って来るなり契約、結びまくってねぇー……。…そこに魔孔のハナシが出た――…からさぁー……」

「ぅわぁ………もう既に古傷・・…抉られてるの……?」

 

 想像も、していなかった現実に、思わずげっそりしながら聞き返す――と、
シュテルは俺から目をそらして「そうなんじゃないの…」と、絵に描いたような苦笑いを浮かべ、俺の予想を肯定した。

 …ココの、戦力的な不安は大体綺麗に吹き飛んだ――けれど、
それとは違う――というかより面倒くさむずかし不安もんだいに発展してしまった――…気がする。
…死傷者うんぬんより傷は浅いかもしれないけれど、神子なかまが傷を負うのは――……今の澪理には致命傷タブーだ。…精神的な。

 

「…後方にさがってって言って引っ込む子じゃないし…ねぇ………」

「…それで済むなら、こんな悩まないよぉー……。…色んな意味で」

 

 自嘲交じりの苦笑いを浮かべ言うシュテル――に、思わず「そだね…」と…同調してしまった。

 独り善がりで、利のない澪理の自分ルール――は、それに振り回されるしかない立場の眷属おれたちにとっては面倒くさいめいわくでしかない。
…でも、その独り善がりごうまんで、利のないごうよくなルールきょうじ――というのが、澪理の魅力かがやきでもあって。
矜持それを失った澪理というのは、仕える上司としては苦労のない、楽なモノだろう――けれど、その分ついて行く価値も、意義も失われているだろう。

 …強く眩く輝いていたからこそ、澪理が失った輝きは多大――
――なのに眷属おれたちの澪理に対する期待値は、自分の神子に対するソレより高い。
それこそ、身勝手な期待かんじょうの押し付けで、それによって澪理の心が折れてしまう可能性だってある――
…けど、過去いつかに見たカリスマかがやきは、紛うこと無き麒麟の神子れいりのモノだった。
あれは失われたんじゃなく、ただ薄れてしまっただけ、忘れてしまっただけだから――。
…いつか必ず、麒麟の神子れいりは帰ってくる――と、俺はそう信じている。
………うん、信じてる。信じてるけど――…どーにも、失われたモノ…が、大きすぎた。

 

「(…かといって、俺がここに残ったところで――…どうこうできる問題じゃないだろうけど……)」

 

 物わかりのいいフェガリor強靭な肉体を持つシュテル――が、俺の神子として機能していたなら、俺がココに留まる価値はある。
でも、神子のいない俺じゃ、体力面に問題を抱える従者と俺じゃあ――価値は限りなく薄い。
戦闘経験が浅いとはいえ、望み望まれきちんと契約を結んだ神子――を、半端な獣神と神子おれたちが「助ける」なんてできるわけがない。
…神子の経験値っていうのはウチの方が上だけど、…獣神の経験は圧倒的に俺の方が劣ってるし…。

 起きありえないことを前提に、想像を重ねたって仕方がない。
前提が破綻している以上、その想像はすべてが「もしも」の上の妄想――まったくもって建設的な頭の使い方じゃない。
こんな、しようのないことに思考あたまを割くくらいなら、もっと建設的な――前向きな方向に頭を回した方が、ずっとずっと有意義。
…なんて、そんな簡単に頭を切り替えられるなら、そもそも――ココに来てすらないっての。

 

「……とりあえず、やれることは全部やる――…単純に、あの子のこと泣かせたくないし…」

 

 こちらをおもんばかって――じゃあなく、おそらく本心なんだろう台詞ことを言うシュテル。
本心の根源はどこにあるのか――…と、考えてしまうと色々と面倒だから、あえてここは色々ふかく考えないことにする。
根源りゆうどうあれ、頭の切れるシュテルが普段は出さない全力を出すと言ってくれた。
今は、それだけでも十分ありがたい――シュテルの本気それだけで、ここの教師れんちゅうの意識は改められるだろうからね。

 

「俺も……俺たちも頑張るけど――…そっちも、頑張ってよ?」

「……ん?」

「…別に、さ?島民うぞうむぞうがどーなろうと、俺にはかんけーない――…んだけど、
…それに一喜一憂通り越して、しばーらく使い物にならないくらい悲しおちこむヤツ、いるでしょ――…そっちに」

「ぁ、ぁあー……」

 

 若干の呆れを含ませシュテルが言う――のは、おそらくリムのこと。
言葉遣いが乱暴で、短気な上に血の気も多いリム――だけれど、その性根っていうのは心優しい少女のソレ。
見ず知らずの、遠い異国の誰かの死ですら心を痛めるリムなんだから、ヴァンピールかつてのどうほうが犠牲になったら――
…うん、シュテルが言った通りの惨状じょうたいになる、だろうねぇ…。

 ――とはいえ、俺がリムの心配事に対して、細心の注意を払う必要はおそらくない。
リムのそんなことは、あの場にいる全員が分かっていること――…特にヴィーはリムのこと大事に思ってるからね。
そうならないように策を――…講じられたらシュテルも心配しないのか…。

 

「ヴィーは脳筋、ジャクリンは昂るとイノシシ――…スィーア姉さんは謙虚が過ぎるし……。
ニアあのへんたいに関してはわかった上で気にしない――………わかってたけどロクな面子いないね?」

「…」

「…だから、ルーの方からスィーア姉さんに言ってあげてよ――『防衛の指揮はお前が執れ』ってさ」

「…」

 

 平然とした顔で言うシュテル――だけれど、その内心はそれなりに穏やかではないんだろうな、と思う。
意図的に存在を無視した――けれど、その存在を勘定に入れなくてはどうにも回らない現状だけに、
無視したくても無視するわけにはいかなかった――…ワケだから。
涼しい顔をしているけれど、その内心は煮え滾るモノがあるんじゃないだろうか――…当人は否定してたけど…荒れた・・・、からねぇ……。

 

「……ちょっと、聞ーてんのぉ?」

「…聞いてる――し、ちゃんとスィーアには言っとくよ。…変なところで引っ込み思案発動しヴィーたてられたら大変なことになるからねぇ…」

「そ――なら、さっさと戻ったら?ココにいたってしょーがないでしょー?」

「…」

 

 尤もなことを、シュテルが言う。
尤も――確かに尤もな意見いいぶんではあるけれど、最適解もっともというだけで「はいそうですか」と呑み込める意見モノじゃない。
そこには個人の感情が絡んで――と、尤もではあるけど、屁理屈に近い言い分を盾に留まるのは、正直獣神としてどうなのか――
――…うん、間違いなく「情けない」って一喝されるね。母様に。

 これ以上、獣神として情けない姿をさらすわけにはいかない――…のかもしれないけれど、「なにを今更」と半分開き直っている自分もいる。
獣神としての「経験」ってものを積んでいない俺が、体面やらプライドやらを保ちつつ、スマートに成長できるわけがない。
…もちろん、だからってその辺りを全部まるっとかなぐり捨てて――ってわけにはいかないけど、それを犠牲にしてでもやらなきゃいけないことはある。
…犠牲にして、叶うどうにかなるかはわからないけど…さ。

 

「はぁー……利子が…利子が……大きすぎるー…」

「…対処できしはらえなかったんだからしょーがないでしょ」

「……あー…過去いつかの俺の尾っぽに火ィつけたい…」

「…つけてもツケりしが増えるだけだと思うけど」

「……」

 

 言い返せない自分が腹立たしい――のではなく、
進歩のない自分に、今まで何もしてこなかった自分――に、呆れと強い頭痛を覚えた。