「ハッ!俺様程度に圧倒されてるよーじゃあ――出世なんざッ、夢のまた夢だ!ガキどもォ!!」
挑発するように大口を叩いている――ようで、実は「その通り」のフェガリの挑発になっていない発破。
…だけれど、ヴァンピールの王の物語を寓話で知っただろう若い吸血鬼たちは、
真祖に倒された過去の反逆者に、気迫も実力でも圧されている――っていう、「情けない」事実に、
正常な判断力を失って、挑発になってないフェガリの挑発がちゃんと挑発として効果を発揮している。
…まぁ要するに、彼らは更にフェガリの術中にハマっている――
――フェガリの掌の上でクルクルと踊らされて、最終的には一矢も報えずに負けるしかないって話。
全盛期には程遠い、最弱状態と言っても過言じゃないフェガリ――だけれど、
今に関してはそんなことはまったくない。だって白狼ノ神の神子――なんだから。
…そりゃ、よその神子と比べたら群を抜いて最弱だろうけど、神子じゃない存在が相手であれば、神子だというだけで勝っている――名実共に、ね。
「……兄ぃが無手で戦ってるとこ…久々に見るな…」
「…というか動いてる姿自体100年振り…」
「っ…わざわざな上げ足取んじゃねーよッ」
「………フェガリお兄ちゃんって…………アジアの……ほら、あれっ――アジアの……アジアの、さ〜ぁ…!」
「あん?アジアの??…アジアの格闘技っていったらムエタイだけど………そう…じゃ、ねーよな……」
「あとのメジャーどころは……中国武術、テコンドー、柔道だけど…?」
「ぅ〜ぅ〜〜…!そーじゃなくてぇ……!日本風中国拳法みたいなぁ…!」
「…………アイキドー?」
「あ!それ!」
「……いや…でも……受け流してねーぞ…?…どっちかっつーとコレ………アイツ、の……」
「? アイツ?」
「……日本の熊だよ…」
「え?クマ――ああユイちゃん?……え?ユイちゃん??え?ええ?全然違うよ??」
「…フェガリ兄ぃのことだから『見様見真似』だろ」
「あ〜そっか………うん――そう言われるとそれっぽいかも」
常勤戦闘員を相手に、武器を持たず戦うフェガリ――を見ながら格闘談義に花を咲かせる少女たち。
実年齢は少女じゃない――けどまぁそれは置いといて、少女然とした愛らしい容姿の3人だけれど、
いざ戦いの場に放てば近接格闘上等の一端の格闘家で。
ヴィーとリムに関しては、巨躯のトロールでさえ素手――…まぁ魔力強化はしているけど無手で倒すほどの実力者だ。
…ただリムに関しては純粋な格闘技、ではないんだけど…。
「…ユイちゃんの業は全然真似できてないけど………新人さん相手なら問題ないね〜」
「…………そー考えるとアイツ…マジでバケモンだったな…」
「え、そりゃそうだよ。だって生身で吸血鬼に勝ったんだよ??私も生身ではあったけどね??」
「…知ってる――っつーか見てただろ…。
……大体、身をもってアイツの強さ加減は知ってるっつの…」
「へー…?かたき討ち??」
「…ちげーよ…。アイツが『親友として!護衛ちゃんの実力、試させていただきやす!』…とか言い出して……」
「わぁ……ユイちゃん鬼だねぇ…。私と違ってリム、殴り合い得意じゃないのにー…」
「……………」
「「…?」」
「………普通に戦って…負けた……っ…!」
「わー」「にゃんと」「ぅへぇ…」
思わず漏れた本心――に、ヴィーたちが俺を見る。
…人間の業を獣神が畏怖れた――なら、3人のきょとん顔は当然だとは思うけれど、
今ヴィーたちが話題に上げているのは人間――だけれど否人だ。
――なんだから、俺が人間離れしたその業を怖れたって、なにもおかしいことはない。…ないんだよ。
「…ルーちゃん、ユイちゃんに会ったことあるの?」
「…一度だけ、ね…」
「始祖様……じゃなくてシキの関係?」
「…というか梨亜さまにくっついて来て――さ、ぁ…………」
「……………まさか……?!…あのバカ始祖様に…?!」
「…アレは俺史上2番目に畏そろしい記憶だよ…」
志季の体を乗っ取りて現代に還ってきた主さま――の力は、全盛期には遠く及ばない。
でも、吸血鬼だろうと、神仏の加護を受ける人間だろうと、容易に圧倒できるだけの力は持っていた。
未だ主さまの強者としての力は失われていない――…けれど、それはあくまで魔物の枠内の話だった。
限りなく本物の神子の力に迫ろうとも、勝ることは――…いや、並ぶことさえ、
もう神子でない者には成し得ないことなんだ――と、思い知らされたのが、
ヴィーたちが「ユイちゃん」と呼ぶ本物のバケモノ――白狼ノ神と同じ「八双」の一柱である猛熊ノ神の神子・堵火那ユイさまとの試合だった。
「…アレ?その時一緒じゃなかったの??」
「ア、アタシの記憶には……ねーよ…っ」
「…リム、真面目だからねぇ……反対されるの見越して、いない時狙ったんじゃないの…」
「あー……ユイ、こーゆーことには頭、回るからね…」
「っ…つか梨亜も志季もホイホイあのバカと始祖様会わせてんじゃねーよ…!」
「…シキは仕方ないよ。シキもリムと一緒で真面目だから」
「梨亜ちゃんはあれだね、ユイちゃんマスターだから――抵抗しなかったんだね!」
「っだあーーー!!!」
主さまの元へ猛熊ノ神の神子――ユイさまを連れて来たのは、
かつてリムの雇い主だった武器商――であり、獣神における序列第二位【四神】の一柱・白虎ノ神の神子――長永梨亜さま。
件のユイさまとは幼馴染みで、公私共に長い付き合い――だったらしくて、梨亜さまのユイさまへ対する扱いは大体が雑だった。
…でもたぶん、それが最良――一番面倒くさくない対応だったんだろうね…。
下手に抵抗するとその倍の勢いで絡んでくる――…ってよくあるからねぇ…。
「ああくっそ…!腹立ってきた…!」
「……誰に?」
「あ゛?!そりゃあのバカにだよ!」
「えー、確かに思い立って実行しちゃったユイちゃんも悪いかもだけど、それを『面倒くさいから』って通しちゃった梨亜ちゃんも同罪じゃ??」
「あのバカのハイテンションとウッゼー絡み方考えたら梨亜も被害者だっ!あ〜…!ぁあ〜……!!」
「……そんなに業腹なら――フェガリ殴ってくれば?」
「……………」
「ぅーん………リムも無手なら大丈夫…かな?」
「……」
「…それはそれで内心フクザツ」
「ッ…!」
過去に溜め込んでいたものが噴き出した――のか、イライラしだしたリムに、
ストレス発散になるだろうと「フェガリをサンドバッグに――」と提案したら、一周回って更にリムをイライラさせてしまった。
…まぁ、俺が悪い……っていうかジャクリンがお茶目を遺憾なく発揮したせい……なんだけど…。
素手であれば、フェガリを殴っても問題ない――のは安心だけれど、
かつては敵わなかった兄貴分が相手とはいえ、最弱状態のフェガリと同等――というのは、
どうにも負けん気の強いリムには気に食わなかったらしい。
…うんまぁ……リムがムッとするのも当然かな、とは思うけど――
「…枯れても白狼ノ神の神子――だからさ?」
「――枯れてねーんですけどー?!」
「あ」
それなりに離れた場所でかつ、屋外での模擬戦だから、こっちの会話なんて聞こえてないだろう――
――って思っていたけれど、俺の想像は外れて、俺たちの会話はすべてフェガリに丸聞こえだったらしい。
…まぁ聞かれて困る話なんてしてないからそれはいいけど――…戦力が減ったのはちょっと問題かな…。
俺たちに気を取られたフェガリの隙を突き、特攻を仕掛けた2人の吸血鬼――だったけれど、
それを見越してたんだか、即座に反応したんだか、フェガリは2人の攻撃を力技で受け止め、そしてそのまま2人を乱暴に宙へ放り投げる。
その放り投げる動作に害意はなかった――ようだけれど、加減の利いていない腕力で放り投げられただけに、
勢いに負けて体勢を整えることができなかったらしい2人の吸血鬼は、べしゃと砂浜に叩きつけられる。
…そしてその様子を見ていることしかできなかったもう一人の吸血鬼は――…完全に戦意を喪失していた。
「………」
「ほへー……フェガリお兄ちゃんって無手でも強いんだねぇ〜…」
「…ちげーよ。俺は無手の方が強ぇーんだよ――
…ただホレ、素手でボコスカ殴るっつーのもカッコつかねーだろ?」
「あー…………うん。確かに武器使った方がカッコイイよね!」
「だろ?……ま、お前のカッコ良さにはさすがの俺様も敵わねーけどなぁー…」
「……………アレ?褒められてる??」
「「「褒めてる、褒めてる」」」
「カッコイイ」というフェガリの言葉にヴィーが首をかしげる――から、「褒められてる」と肯定の言葉を向ければ、リムたちとハモる。
…別段、ここでヴィーがフェガリが言わんとしていることに気付いたところで、
ヴィーが怒って大暴走――なんて展開にはならないだろうけれど、わざわざそういう方向に向かう必要もないわけで。
面倒を嫌ってフェガリの真意――全員が内心で思ったことを誤魔化したけれど、おそらくヴィーはそれには気づいている。
でも、そこをわざわざ掘り下げる気はない――っていうよりも、それ以上に気になることができたようで、
「フェガリお兄ちゃん!リムとタッグ組んでもいーいー?!」
「………………イヤー……さすがにそれは………お兄ちゃんでもきっついわー……」
「えー?このままだよー?」
「…その姿のままボス兄と当たり前にスパーリングやってたお転婆がなに言ってんのー」
一回りも二回りも体格が上回っている大人を相手に、キャッキャッと楽しげに組み手をしていた少女。
ぶっちゃけこの幼馴染み内ではよく見る光景だ――けど、冷静に考えたらありえない光景だ。
――ただ、ヴィーの相手をしているデーモスが手を抜いている――なら、ある意味でなにも違和感はない。
でもこの二人の組み手は違和感しかない――だってどっちも本気で組み手に打ち込んでるから。
楽しく真面目に組み手に打ち込むのは大切なこと――だけれど、もう少しヴィーは自分の絵面について考えた方がいいと思う。
…女の子として「カワイイ」にこだわるのはいい――んだけどさぁ……。
「――ヴィー、出てくんなよ。順番はアタシが先なんだからな」
「…はぁ〜い、ちゃんと待ってるよ〜」
遠回しなフェガリの却下に引き下がらないヴィー――を下がらせたのはリム。
順番っていう権利を持ち出されたヴィーは、不満そう――というかつまらなそうではあったけれど、ちゃんとリムの言い分を聞いて二番手に下がる。
それを目で確かめ、耳でもヴィーの了解の言葉を聞いたリムは、
なにか納得した様子で小さく頷くと一歩前に踏み出す――と同時に、その姿を昼間見た美女の姿に改めた。
「――これなら、遠慮なく闘れんだろ?」
「……バーカ、お前相手に遠慮なんざするわけねーだろ――今も、昔もな」
ニヤと、挑発の色を含んだ笑みをフェガリが見せた――ところでリムが拳を握り、フェガリに向かって突っ込んでいく。
勢いに乗せて放たれるリムの拳――を、フェガリは軽くかわして一旦リムから距離を取ろうとする。
でもそれをリムが許さず、二撃目、三撃目と間を空けずに攻撃を続け、フェガリを攻め立てていく――
――が、それによってフェガリが追いつめられている風はなかった。
「んむぅ〜〜〜〜〜??」
「……なに?どうしかしたの」
「ぅんー………………なーんか……だんだんユイちゃんと動きが似てきているような………」
「…ぇ」
「ユイちゃんってね?
基本的にはものすんごいバ腕力で圧倒してくる先手必勝タイプなんだけど、
組み手だとカウンター主体なんだよね――強いから」
「ぇ…なにそれ……『自分強いから攻撃してこいよー』の末に、『待ってました』とカウンターでとどめ…?」
「そうそう――…アレ?ミー様の時は違った??」
「………恐ろしすぎて途中で見るの止めたし、記憶に封してる」
「あー…そっかぁ……ミー様とユイちゃんじゃあものすんごいことになってたよねぇ〜…――うーん…見たかったなぁ…」
俺でさえ耐えられなかったっていうのに、それを見たい――とか、恐ろしいことを言い出すヴィー。
でも、体術の研鑽を積んで、その見識も深い――上に、ユイさまと懇意だったヴィーであれば、たぶん観戦している分にはなんでもないんだろう。
……俺は未だにアレを直視できる自信は正直ないけどねー……。
「…まぁ……出所はともかく、リムとあれだけやり合えてるなら意外と――」
「あ、ダメダメ。あの感じじゃ『一対一の試合』じゃないと通用しないよ。
普通に湧いてくる魔物ならいくらでもーだけど、『魔孔の暴走』で湧いてくる魔物は――ね?」
リムを圧倒はできていないけれど、最弱(吸血鬼基準)状態でリムとそれなりに闘い合えているなら――と思ったけれど、ヴィーはこれじゃダメだと言う。
普通ならいいけれど、暴走状態の魔孔から出てくる魔物では――と言われると、それは「確かに」と納得するしかない。
ただ漏れ出てくるのと、暴発によって噴き出してくるのじゃ、原因が違うんだから。
ヴァンピールの王・フェガリ――と言えば、黒ノ始祖が作り上げた魔剣・フェンリルを振るう、魔剣士にして魔法剣士として知られている。
でもさっきの当人の発言も事実で、無手の方がフェガリは自分の力をいかんなく発揮できる――けど、やっぱり当人の言う通りで、
戦っている姿が「格好つかない」から様になる剣士のスタイルを選んだ――っていうのは建前で、本音は真祖さまに勝てないから――だったりする。
真祖の血を色濃く受け継いでいる――吸血鬼としての素質が高い吸血鬼っていうのは、
総じて無手――武器を使わず、自らの爪で戦うことを得意として、またそれを好む傾向が強い。
…子供の時分にはフェガリもそうだった――んだけど、
真祖さまの屋敷を離れて魔法学園に通い始めたくらいから、フェガリは自分の武器を剣にしていた。
…おそらく「同じ分野じゃ真祖には勝てない」と考えての鞍替えだったんだろう――…変えても、案の定勝てなかったワケだけど。
最弱状態なんだから、使う得物は最も得意とするモノを選ぶべき――だけれど、最弱状態だからこそ「そうじゃない」ってこともある。
…特に無手は当人の全ての能力が反映される戦闘スタイルだから………向いている、とはいえ、最弱状態の今のフェガリには「不向き」だ。
もちろん、雑魚やら試合やら、命がけじゃない闘いであれば通用するけれど――
――…命がけの戦いじゃ、心許無い力だろう。
「…まぁ……今はアレでいいんだけどね――…魔力消耗するにはもってこいだし…」
「えー?身体強化系の魔力行使ってコスパいいんじゃないのー?」
「……燃費が悪いくらい強化しないとまともにやり合えない――くらい、素が弱いの」
「わぁー…………おばーちゃん……どれくらいフェガリお兄ちゃんから搾り取ったんだろうねー……」
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