原初の吸血鬼とは、真祖――ニュクス・レベリオン・トレドティス。
そしてその血の受けた吸血鬼とは、始祖――ミシェル・ルチフェベートとレーヴェ・ウェルストス。
同じ血から産まれ落ち、そして同じ方向を向きながら――も、白と黒の始祖は全く違う道を選んだ。
白ノ始祖は己の欲に従い、享楽的に他人を踏みにじった。
それに対して黒ノ始祖は、己を殺して真祖の意に従い、他人のために生きた。
およそ真逆とも言える生を歩んだ白と黒の始祖は常に不仲――だったわけじゃあないらしい。
…というか、互いに干渉しあわないだけで、仲が悪かったわけじゃない――とは母親談。
穏健な黒と、過激な白の、デコボコにもほどがある兄妹――と、その眷属との間に生まれた子供たちは、
自身の親を尊敬し、そして畏怖し、その血を受けることに誇りを持った――のが、
白と黒の「一族」が生まれ、その間で摩擦が生じるまでに至るそもそもの原因らしい。
吸血鬼が勢力を拡大しはじめた当初、勢力拡大の担い手であった白ノ一族によって、
吸血鬼という種において重視されるのは血と力――という定義が広まった。
これによって武闘派だった白ノ一族は、戦いではなく学術や芸術、結界や封印といった
攻撃性を持たない魔法の開発と研究を行っていた黒ノ一族を「臆病者」と嗤い見下した――
――一方で、黒ノ一族は欲に任せて命を踏みにじる白ノ一族を、「獣にも劣る」と嫌悪し敬遠した。
互いの在り様を認めなかった白と黒の一族は、その溝を歳月と共に深いものにしていった。
そして永久ノ魔女を師と仰ぐ、これまた白と黒の魔法使いの一族の対立に乗っかり――
――欧州の表側の歴史まで利用して、白と黒の一派は抗争を繰り広げた。
…そして千年という途方もない歳月に亘って続いた抗争は、
うっかり真祖の「庭」に戦火が飛び火したことによって――
――喧嘩両成敗で白黒共々真祖に半殺しの目にあったことで、その抗争は強制的に終決した。
永久ノ魔女を、神か皇帝か――とりあえず「主君」として、
白と黒の一族は、吸血鬼も魔法使いも協和の道に――は進まず、一番初めの形に戻った。
互いの存在を許容し、不要な干渉はしない――が、主君の命とあれば互いの命を預け、同じ命を果たす、白と黒の兄妹の関係に。
――ただ、吸血鬼の場合は、血筋と一緒に「力」っつー要素が吸血鬼としての格を量る要素として定着していた――ことに加えて、
数も白ノ一族の方が多いこともあって、和解した後もその勢力は白ノ一族に傾いていた。
…ただまぁ、それもまた千年とか昔の話で、今――ってか400年前くらいに吸血鬼の白と黒の一族は協和の道に進んでいた。
――ただそれは、友好や信頼関係から始まったものじゃあなかったが。
血を遵守するがための近親婚によって劣化と減少の一途をたどっていた吸血貴族。
このままでは吸血鬼としての地位を保つどころか、種としての優位性すら保つことができなくなる――
――と、危惧したところで、白と黒の吸血鬼は協和の道を選んだワケだ。
元はしょーもない理由で始まった協和の道――だが、今は純粋な友好と信頼で白と黒の一族は繋がっている。
…つっても、未だに血を遵守する重きは残ってる――し、時代錯誤に敬遠し合ってる連中もいるんだが――
「フェガリお兄ちゃーん!!」
「ぅォぶ!」
鉄砲玉かなにかの如く、文字通りの「目にも留まらぬ」早さで俺に抱き着いてきたのは、
ヒヤシンスネイビーの髪を二つ結びにした少女――リヴィーゼ・アネルヴァス。
白ノ始祖を祖とする武闘派一派の筆頭・アネルヴァス家の当主の娘――要はオリナ兄の妹だ。
…可愛らしい姿で無邪気にキャッキャッと懐いてくるのはいいんだが――力加減を…!力加減をしろォ…!!
「お兄ちゃんだ!ホントにフェガリお兄ちゃんだー!」
「バっ…!ヴィー…!!折れる…!骨っ……おーれーるぅー…!!」
「ふえ?」
骨が折れる――誇張のゼロの俺の主張に、リヴィーゼ――愛称・ヴィーは俺の胴に回していた腕から力を抜く。
非常に…ひっじょーに、このヴィーは少女然とした愛らしい姿をしている――が、なんと言っても武闘派筆頭一族・アネルヴァス家の娘。
その実力は上の上に分類され、近距離戦においてはトップクラスの実力を誇る――パワーファイターだ。
ヴィーが、可憐な少女の姿には似合わない、物理重視の戦闘スタイルを選んだ――
――のは、ヴィーが先天的に魔力による身体強化に秀でていたから。
その天性の才能によって、体格も筋力も女に勝る男――どもを、無邪気になぎ倒すほどの腕力を、半ば無意識で行使できるから――
――で、んな腕力で無遠慮にぎゅうと抱き着かれりゃ、そらめきょっとあばらが逝く。
…昔であれば、それを予期してこっちも魔力で体強化して待ち構えてたが――
――…燦々と照る太陽の下で生きてるだけで精一杯の今の俺に、それは無理な相談だ。
「ヴィヴィちゃん、今のフーさんは人間レベルのあれでそれでね?
昔みたいな感覚でお茶目しちゃうと死んじゃうかもなんだよねぇ」
「えっ、そうなの?!お兄ちゃんっ、お金だけじゃなくて魔力まで取られちゃったの?!」
「………取られた、んだかは知らねーが――…最低限しか残ってねーのは事実だよ…。
…つーか、こんだけ引っ付いてりゃわかるだろ?」
「――…………わかんない!」
「…」
「…ヴィーに魔力感知は無理な相談だよ――フー兄さん」
ヴィーの突撃から後れてやってきたのは、中性的な印象の白髪の少年――風の姿をした白黒ブチの猫耳少女ジャクリン・テン。
永遠のおてんば娘ヴィーの護衛――つーよりお目付け役で、
100年前から一緒に行動している…ってかヴィーに振り回されてる猫人。
…おそらく俺が眠っていた100年間も……ヴィーに振り回され続けていたことだろう――…まぁ、もう慣れたもんだろうが。
抱き着いている――密着した状態、相手と距離ゼロの状態で魔力を量れ――ってことすらヴィーには無理な相談だとジャクリンは言う。
「マジか」と思いながら視線を下――抱き着いたままのヴィーに向ければ、ヴィーは屈託のなくニコーっと笑顔を見せる。
…そうかい。お前も100年経っても進歩ねーのか。……まぁ正直なところ全然期待してなかったけどな。
「………まぁ、相変わらずでもお前たちが居てくれたのは僥倖だ――お前たちなら安心して後ろを任せられる」
「えへへ〜――って、あれ?後ろ??」
「……お前、基本的に壊すしかできねーだろ――人間関係以外は」
「あーうん。そだねっ」
「…なら、俺が行くしかねーだろ――…そこの若いのじゃア呑まれそうだしなァ」
ジャクリンの後ろ――俺たちの輪から少し距離を置いたところに突っ立っている年下だろう吸血鬼たちに、
挑発の色を含めて値踏みの視線を向ける――と、そいつらは僅かに恐れの色を顔に浮かべ、その身を強張らせる。
…俺のオーラ的なモンに気圧されたんだか、単に俺の名にビビったんだかはわからんが、
魔力の蓄えもない最弱状態の俺に気圧されるよーじゃあ――俺基準の「戦力」にはならんだろう。
――しかしまぁ、この程度の連中で務まる「任務」だっつーなら、
ヴィーとジャクリン、いざとなればニア…つーか、ニアの抱えてる人造人間で十分対処できる程度、と見積もっていいだろう。
…今更考えれば魔界がバタついたのは80年も昔の話――魔孔の魔物放出のピークなんぞはとうに過ぎているはずだ。
――…とはいえ、
「…まずは魔孔の暴発の程度を教えてくれ。算段立てるのはそれからだ」
「…………え、魔孔??ぅええ?まさか――塞ぐ、の??」
「それ以外にやることあるか?」
「ぅ、うーん…?」
「……ここに、骨埋めんのも一つ方法なんだろうが――な。
ヴァンピールに贖うだけじゃあ足りないんだよ――俺のした事ってのは」
この現状が、誰の手も借りず、ヴァンピールの力だけで成り立っている――なら、骨を埋めるでもいい。
だが、この現状はほぼヴァンパイアの恩情と善意で成り立っている。
なら俺は、ヴァンピールを作り上げた者として、その恩に報いるだけの力を持つ者として――義理を果たすのが道理、だからそれを果たす。
そうしなけりゃ――…いつまでもヴァンピールはヴァンパイアの「情け」で生かされている労働力、だ。
「へへっ、お兄ちゃんも――相変わらず、だねっ」
「…そーかもな。俺も、進歩ねーな」
「へへ〜でもフェガリお兄ちゃんそーゆーところ、私好きだよ!
ってゆーか、そこがお兄ちゃんの良いところだし!みんなが好きなとこだよ!」
「…………………嬉しくねーし、屈託なく笑顔で言われるとものすげー居た堪れねーわー…」
「えー褒めてるのにー」
「っ――だぁ〜っいーからさっさと計画建てるぞっ。ニアっ、部屋と魔孔の活動記録借りてこい!」
「ふふっ――はいはーい、了解りょうか〜い」
…後でニアの顔面毟る。
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