俺は、新派ヴァンピール旧派ヴァンパイアに取って代わる日が訪れる――なんて、端から思っていなかった。
矜持のないおろかな成金貴族ヴァンパイアを根こそぎ粛清できたとしても、矜持を持つかしこい王侯貴族ヴァンパイアには敵わない――
――それはヴァンパイア側に真祖ババアが助力しなくとも、だ。

 純血統と被害体の能力差には大きな開きがある――から、弱者ひがいたい強者じゅんけっとうに虐げられ、そしてそれに抵抗も反抗もすることができない。
――それでも、ぬるま湯で育った高鼻の三流純血であれば、被害体であってもしっかり訓練を積めばその打倒は不可能じゃあない。
統率を以て徒党を組めば、ヴァンパイアの城を落とすことは可能――だが、それはあくまで二流以下のソレ、が相手だった場合に限った話だった。

 

 俺は、ヴァンパイアにとって並の戦士じゃ時間稼ぎも叶わない実力者きょうてきと認識されていた。
それは間違いのない事実――だろうが、だからって「絶対に打倒できない存在」とまでは思われていなかっただろう。
たとえ真祖ババアの存在がなくとも。

 …己惚れているようでアレだが、俺は吸血鬼として真祖や始祖に迫――らないが、
順位ってのを付ければ、そいつらの次位に付くだろう力を持っている。
それは、俺が俺の力で打倒した相手を基に勘定した自惚れひょうかじゃーなく、他でもない真祖ババアお墨付きひょうか
だからヴァンパイアたちは、始祖に次ぐの力を怖れた――が、だとしても、
俺が自分たちの全てを打倒するとは毛の先ほどすらも思っていなかっただろう。
…まぁ、壊滅寸前――くらいは、最悪想像してたかもだが……。

 おそらく、真祖ばばあを除いた吸血鬼の中で、俺は最強――最も優れた戦闘能力を有した存在だった。
だが、俺が吸血鬼の中で最も優れていたのは――おそらく、その一点だけ。
他の点に関しては、俺よりも優れた吸血鬼そんざいなんてのは何人でもいた。

 

 ――一人、例を挙げるとすれば、それは俺を支援してくれた――ヴォルス。
錬金術師、魔法具職人としての才能は、真祖と始祖に迫り、若年にもかかわらず公爵の位を与えられた実力者。
…だた、アイツはヴァンパイア側にいながらヴァンピールの大将である俺と通じていた――中立(自己申告)、という立場にはあったが。

 そして更に言えば、吸血鬼同士の抗争においてて、ヴォルスの最も優れた才能てんは、全然まったく役に立たなかった――直接的には。
……直接は、役にたたないんだが、大軍戦闘――大人数での抗争って観点ワクで考えれば……有利な才能、ではあったんだよなぁ…。
…訓練するよりずっと手っ取り早いからなぁー……武器の性能を上げんの……。

 

 そーゆー意味では、ヴォルスが中立であってくれたことはありがたかった――が、
それ以外の才能すぐれたてん、それも戦闘・・に直接かかわる才能を持った連中も、ヴァンパイア側にはいた。
そして、俺に匹敵する戦闘能力を持ったヤツ――タイマンでやり合ったら確実には・・勝てないってなヤツ、もいた。

 ――そう、俺という存在は、王侯貴族ヴァンパイアにとって旧派ヴァンパイアの存在を揺るがす脅威――
――なんぞじゃあまったくなく、己の力を過信して暴走した若造、でしかなかった。

 被害体が純血統に取って代わり、吸血鬼の社会せかいを変える日がやってくる――
――なんて、大々的に言って回っていたが、正直なところ、そんな大それたことはほぼ全く思っていなかった。
権力に屈しているだけの被害体たちの意識を変え、
権力を振りかざすだけで義務も責任も果たさない純血統の意識を改める――為、の決起はつげんだった。
――ただそれを、俺は自分の「野望」と掲げいったが。

 

 吸血鬼の世界に根差した悪しき慣習きぞくしゅぎに、叛旗という楔を打った――真祖の操り人形。
…なんて、加害者のような被害者で終わる未来みちっていうのも、俺には用意されていた――ってかババアは俺をこっちの顛末に転がそうとしていた。
…あれで、意外と甘っちょろいからな…あのババア……。

 ――だが、その「救い」のある顛末みらいを、俺は撥ね付けた。
ババアの意のままになるのが嫌だった――それも間違いじゃあないが、
そんなしょーもない衝動ことだけで、自分の未来を決めるに相当する覚悟が決められるほど――…俺は器も大きくなれけりゃ、バカでもない。
――…そういう意味では、俺は器の小さい――真面目なヤツ、だったのかもな…。……んな自覚はまったくもってないが。

 野望を語り騙った俺の扇動に先導され、旧派ヴァンパイアに取って代わらんと立ち上がった――新派・ヴァンピール。
新しい吸血鬼の「世界」を掴み取るために、ヴァンピールは強大で強固なヴァンパイアという一族そんざいに弓を引いた――
――が、大方のヴァンパイアが想像した通り、ヴァンピールの野望は成就することなく終わり、
その首魁はたがしらだったフェガリ・プレヴェールおれは、真祖の処断によって死――ではなく、ただ深く、長い眠りに就くことになった。
…そして、指導者であり守り手であった旗頭おれを失った弱者ヴァンピールたちは――

 

「(…………感謝…するべき――…だよなぁ……)」

 

 いつかの時、敗北の顛末――を見越して・・・・割とちまちまコツコツと溜め込んでいた貯金――
――を、綺麗さっぱり食い潰してくれやがった白ノ始祖。
大富豪――までは言わないが、成金富豪程度には蓄えがあったってのに、
白ノ始祖はそれを跡形もなく使いきった――クッラビアンコこの島の整備のために。

 

 吸血鬼にとって、この島は初めから特別な島だった。
白ノ始祖が、自身の血を分けた眷属にその管理を任せた島――白ノ始祖所有の「庭園」として。
だからこの島に住んでいる吸血鬼の多くは血統い吸血鬼たちばかり――なんだが、
彼らの先祖は血統くとも弱い吸血鬼で、それに準じて子孫である島民たちかれらも――弱い吸血鬼、だった。

 吸血鬼は魔族の血を引いている――せいなのか、財より、権威より――実力を至上と考える。
だから、いくら血統が良くとも、力で劣ればそれは淘汰はくがいの対象になる。
そしてその逆は――となると、また話が変わってくるからややこしいんだが、
とにもかくにも弱い吸血鬼ってのは、それだけで迫害の対象に成り得る――ってわけだ。ヴァンパイアの社会せかいにおいては。

 だから、白ノ始祖は白ノ始祖じぶんの庭園を作った――
――かつて築いた巨大な居城をマグマで溶かし、その上に土をかぶせることで作り上げた孤島の上に。

 

 弱い吸血鬼のために拓かつくられた白ノ揺り籠クッラビアンコ島。
白ノ始祖の威光――そしてその意向に従う強いべつの眷属の子孫の庇護によって、
島の住民たちは、ヴァンパイア特有の弱者への迫害、ヴァンピールの逆恨み的暴力、
そしてそれらの抗争による被害というものから遠ざけられ、
やや前時代的――質素、ではあるものの平穏な生活を送っていた。

 誰に虐げられることもなく、己の無力を嘆くこともなく、
隣人と笑い合い、健やかに、穏やかに日々を生きられるのは、この島を作った白ノ始祖の温情故に――。
一度は薄れ、忘れかけられた感謝コト――だったが、島の存続につながる一大事において、
白ノ始祖――の器とその仲間ファミリーが事件に介入したことによって、島の異物がんを排除することができた。

 そしてその成果けつまつによって、白ノ始祖の威光は再度輝きを取り戻し、
島民はその恩情に報いることを願った――がために、島の一角にリゾートホテルがぶっ建つことになった。
なんでそうなる――と、激しくツッコミを入れたいところだが、意外とそれは利に適った投資・・ではあった。

 

 俺の失態によって、今まで以上の迫害を受けるだろう運命にあったヴァンピール――を、保護すると言い出したのは白ノ始祖。
「後任がやらかしたことだしねぇ?」と嗤い、後任の金を根こそぎ使って白ノ始祖は、
弱者ヴァンピールに住む場所と働き口を作った――恩に報いたいと言う弱者ヴァンパイアが暮らすこの島に。

 ヴァンパイアのためのリゾートホテルごらくであって、ヴァンピールのためのリゾートホテルはたらきぐちでもある――ホテル・子犬の夢ソーニョ・クッチョロ
ホテルの名前は白ノ始祖がつけたらしいが――…なんつーストレートな嫌味ってか皮肉だよ……。

 

 俺が溜め込んだ資金の全てと、更に真祖ババアと白ノ始祖のポケットマネーから工面した資金を基に、
ヴァンピールたちの手によって――このホテルは建てられたらしい。物理的に。
んで、そのホテルの運営は真祖の監視の元、一度は島の運営を投げた白ノ始祖の眷属の末裔――
――じゃあなく、商売は得手じゃないが信頼度は多大に上がる同じく白ノ始祖の眷属の末裔――アネルヴァス家に一任されている、んだそうな。

 アネルヴァス家と言えば、ヴァンパイアの中でも特に武功に秀でた武闘派の家系――で、その派閥の筆頭。
表でも裏でも、真祖の意に応じて多くの戦いに参戦し、その度に武功を上げは一族の地位を確かなものにしていった――名門中の名門。
武功に優れている――という評価は、耳にタコができるだけ聞いているが、
それ以外のプラス評価というのは正直、聞いたことがない――んだが、「上手いことやれるだろう」って人物には心当たりがあった。

 

「(…………ここにきてにじみ出る末っ子力……)」

 

 プレヴェール家において俺は長男――なんだが、
親戚及び、両親の交友関係における「子供たち」という枠組みにおいては、まぁまぁの期間末っ子的立ち位置にあった。
…しかもデキる兄貴分ばっかりが3人も…――……んで、何の因果か下は妹が多いんだよなぁ〜……まぁ血が繋がってるのは弟だが。

 なにかと身近だった兄貴分――の一人が、またこれヴォルス。
んでもう一人は件のアネルヴァス本家の当主の長男――オリナ・アネルヴァス。
そんで更にアネルヴァス家に仕える従者一家のこれまた長男の――デーモス・グラボラス。
この3人に、俺を加えた男4人組が、俺が子供の頃によく遊んだメンバーだ。

 

 んで、このグループの中で一番問題・・だったのが、一番年下の俺が抜きんでて「やんちゃ」だったってこと。
そして、そんな好奇心やらに素直なチビ助の世話を任された3人の兄貴分たちは所謂ところの「お利口さん」で。
わんぱくが過ぎる「やんちゃ坊主」の世話を任された真面目よい兄貴分たちは、俺の突拍子もないやんちゃな行動に振り回された挙句、
その尻拭いをさせられる――なんて顛末オチを、毎度味合わされていた――ことだろう。

 そんな寛大なよい兄貴分たちの、苦労の上に成り立っていたフォロー――を、俺は長らく無自覚で受けていた。
…だが、オリナ兄たちに代わって弟妹たちの面倒を見るようになったことで、その苦労コトにようやっと気付くことができて。
それからは戒めとして「世話には――」って心の中に留めてたんだが――…
…結局、尻を拭ってもらう顛末オチになるとか………あ゛ー……気が滅入るー……。

 

 武闘派筆頭のアネルヴァス家出身のオリナ兄――は、その家名に恥じない武闘派だ。
真祖ババアに拉致られはしなかったが、それでも期待はされてはいて、
その証拠にイギリスにある退魔組織【灰ノ地平線騎士団グレーホライズンナイツ】で、永久ノ魔女ババアの指名で幹部の一人として師団長を任されている。
その戦闘能力じつりょくは疑いようのない確かなモノ――だが、俺から言わせればオリナ兄の才能すごいところはそこじゃあない。
オリナ兄が凄いのは――社交性の高さと人懐っこさから成る「交渉力」。
――で、その副産物として「人望」っつーある意味で最強の武器まで手に入れてるんだから――恐ろしいすごい

 その交渉力の高さは間違いないが、オリナ兄に商才はあるのか――ってなると、正直なところなんとも言えない。
だが仮にオリナ兄に商才がなくとも、オリナ兄ならとりあえずはやっていける。
人望うんぬんでどうにか――とも思うが、昔と変わらずその傍にデーモス――愛称「ボス兄」がいるのであれば、それだけでやっていける。

 …出来た従者すぎてバレしられてないが、ボス兄はオリナ兄を超える才能の持ち主――で、
普通に油断すれば、不意を突かれれば――最強と呼ばれた俺であろうと敗北を喫すほどの実力者だ。
…変な話、俺とオリナ兄が居なければ「次代の王」と期待されて――それに応えていただろう人格者、だ。

 

 ヴォルスの支援はありがたかった――が、オリナ兄とボス兄の尻拭いは――…キツい…。
ただまぁ…俺がそう思ったところで、あの二人は「真祖様から指示だった」の一言で片付ける――
――し、本気でそうとしか思ってない可能性が高いんだよなぁ……。

 ………あの二人も、根っこが優しくて善良だからなー………フォローをフォローと思わないんだよな…まずそもそも……。
…その点、ヴォルスは違う意味で「優しい」よなぁー……。

 

「(そしてその『優しさ』にいつまで経っても甘えてる俺ってどーなんだよ……!)」

 

 甘やかすヤツが悪いのか、甘える人ヤツが悪いのか――んなのは9割方甘えるヤツが悪い。
…場合によっては、テメェの利己エゴで他人を甘やかすヤツもいるが――俺の場合・・はそうじゃない。
7割善意の、2割義務感の、1割人情――兄貴分とうにんたちは、義務感と自己満の半々――とか言うんだろうが……。

 

 ある意味で、当然のこと――ではある。
大それたことをやらかした張本人、その始末をつけるべきヤツが、その始末をつける間もなく眠りに就かさたいじょうさせられた――
――以上、とにかく誰かが始末をつけなけきゃならないってのは。
そしてその始末・・は、ヴァンパイアの頭――真祖がつけるのが道理だろう。
屁理屈のような正論で言えば、反乱分子が暴動を起こすまでの増長を許し、
その暴動を未然に防ぐことができなかった、しなかった――のだから。
…そして、その道理に則って、真祖は後始末に乗り出した――…わけだが……。

 …血も涙もない非情な真祖くんしゅであったなら、その始末は単純明快――反逆者の一掃処分みなごろし一択。
…だが、幸か不幸か……吸血鬼おれたちの頂点に立つ真祖くんしゅ同族みうちにはそこまで非情じゃあ――…ないんだよなぁ……。
…まぁ俺を殺さない時点でそれは明らかっちゃ明らかだが…。

 優しあまい真祖の権限の元、賢狼かほごな白ノ始祖が発案した事業を、面倒見つきあいのよすぎるアネルヴァス家次期当主が主導し、
その庇護かんしの下で生活を送る被害体ヴァンピールたち――は、それまで以上の平穏を享受している。
…愚かな弱者はいしゃとして底辺を這いずり、それまで以上に虐げられるはずだったってのに…。

 

 ――わかっては、いる。
ヴァンパイアの中でも、ヴァンピールたちのことを助けたいもんだいだと思っていた連中がいて、
その中にはババアも白ノ始祖もオリナ兄もいたってことは。

 …てかババアに関してはそういう考えがあったから俺を鍛えて、俺にヴァンパイアのわるい部分を見せた――
――んだろうから、冷静に考えれば俺よりも悪い首謀者くろまくだ。
…ただ、それを肯定すると、俺がババアの操り人形だった――って話になるから絶対に認めねェけどな!

 わかっている連中からすれば、俺は――生け贄、だったんだろう。
膠着した現状に波紋を起こすための捨て石――…ただ、色々ハイスペックべんりだから再利用前提の。
だからこの顛末ってのはある意味で「想像通り」のモノなのかもしれない――バアアからすれば。

 …端から、ババアの計画の終点は現状ここだった――んだろーさーなぁ〜…。 

 

 昼間にはきゃらきゃらと騒がしかったガキどもの声も、今はすっかり無くなって――
――ニアが神父と院長をやっている教会兼孤児院は、穏やかな静寂に包まれていた。

 そもそもは人間の学友で、それからまぁ色々あって血を分けた、ただ一人の眷属みぎうでとして、
叶いもしない俺の「野望」に最後まで付き合ってくれた――ニア。
…俺と、最後まで同じ道に立っていただけに、その道が潰えた後のことは、正直心配してたんだが……、
…さすがババア、抜け目ねーなっ――と、癪だが思う。
俺の右腕だったニア――実質的なヴァンピールのナンバー2だったアイツだからこそできる事ってのは山ほどある。
…特に、ヴァンピールに対する働きかけにおいては。

 この島の島民ヴァンパイアたちは、本土のヴァンパイアたちよりもずっと穏やかで心優しい――だろうが、
「敗者だ」という認識が強かったろうヴァンピールたちは、おそらく彼らの優しさを厚意と受け取らなかったはずだ。
ヴァンピールが、ヴァンパイアに優しくされる理由――ヴァンパイアがヴァンピールに優しくする理由が、初めからない以上は。
――で、そこで上手いことやってくれたのがニアなんだろう。
…アイツも、社交能力が高いからな………ただ、オリナ兄と違ってアイツの社交性ソレは不純な始まりモンだが…。

 ニアとオリナ兄がタッグを組んで、ヴァンピールとヴァンパイアの間に「信頼」っていう架け橋を築いていった――なら、
その橋は順調に架かって、ウン十年と綻ぶことなく確かに保たれた――から、このアホみたいに平和な島、が出来上がったんだろう。

 …拍子抜けする――よりも、100年っていう長い年月に亘って苦労を掛けてしまった――っつー罪悪感に見舞われる――
――…かと思ったんだが、さすがにあそこまであっけらかんとされると…若干、虚しくなってくるな…。
……俺が、とんでもなくアホウな道化に思えて………。

 

「(ったく……なさけ――………っ…?!)」

 

 自分の情けなさにため息が漏れる――前に、思わずそれを呑み込んだ。

 不意に奔ったのは不快感――なんとも善くない魔力の動きがどこかであった、ように感じる。…ただこれに、絶対的な確信はない。
その不快感というのは強かったが、魔力の強さという意味ではそれは弱かったし、瞬間的な揺らぎだった。
これが、この島の不運につながる――…とは正直思えないが、それでも気になって部屋を出る――と、

 

「あ、フーさん」

 

 教会に併設された孤児院から外へ出ると、そこには既にニアの姿があった。
俺と同じくあの魔力の動きを感じ取ったんだろうニアに「なんだ」と尋ねれば、ニアは珍しく苦笑いした。

 

「ん〜……実はこの島、魔孔があってね〜」

「………白銀魔城に開けた、か?」

「うん、そうそう。で、その魔孔から時々わるーい魔物たちが噴き出してくるんだよねぇ…」

「………あ゛?」

「いやうん。フツーは、ありえないよ――昔だったら、ねぇ〜…」

「っ…まさか冬輝の…?!」

「…そー…なんだよねぇ……アレで大量に色んなモノが死んじゃったからさぁ…。
魔界も地獄もてんやわんやの大わらわ――…で、処理しきれなかった悪霊やら悪性魔獣やらが魔孔からぴょーんって飛び出すようになってねぇ……」

「っ…ワケはわかった。んで、どーすりゃいいんだっ?」

「……あ、フーさんは出動しなくても大丈夫だよ。たぶんもう対処してるだろうから」

「…ならアレは出た印、ってことか」

「まぁね――…島民の大半は気づいてない・・・・・・けど、ね?」

 

 地上げんせと魔界を繋ぐ――ってよりは、魔界から現世へ向かってこじ開けられた穴――それが魔孔。
昔は、魔孔から漏れる魔力に惹かれて魔物が巣を作って、そこで更に繁殖・成長を遂げて問題に――程度のことはあった。
だが、魔界から魔獣、更に地獄から悪霊が湧き出る――なんざ聞いたこともない。
…とはいえ、黄龍の神子ふゆきの一件――欧州大地震によって生じた被害を考えれば――…有り得る話、ではあった。

 瞬間的にだが、強烈に感じたあの不快感――は、魔孔から魔獣なりが湧いた時に生じるモノ、らしい。
…だが、そもそもの魔力の規模というのが小さいだけに、この魔力の揺れを感じ取ることができる島民は極少数。
そして、その極少数の内の誰かが対処に当たる――というのが、もうこの島では当然のことになっているらしい。

 

「……塞げない、のかよ…」

「それができたらすっごい助かるんだけどね〜。
…でもさ〜ほらさぁー……白銀魔城の魔孔、だからさぁ〜……
…すんごい大きい上に、魔力の濃度も波動も強いから――まず、近づくことからままならないんだよね!」

「………」

「一度はみんなで『がんばろー!ファイオー!』ってなんたんだけどねー?
…なんにしても規模が規格外らしくてさー……。
ミシェル様も真祖サマか全盛の自分だったらーって言ってたんだけど――……
…それって神子サマ案件ってコトじゃん?ってことでお手上げしたんだよねー」

「…………待て、そんな規模の魔孔があんのに……なんで呑気なリゾート地になってんだよ……」

「ああそれ?それはあれ――ヴァカンスの御代金が魔孔の監視!なのデスっ」

「………」

「もちろんフツーにお金でもご利用可能なんだけどね?それを引き受けると割引かつ好待遇になるんだ〜。
だから腕の立つ王侯貴族ヴァンパイアサンがわりーと、よく来てくれるんだよねぇ〜」

「……客が…いない時はどーしてんだよ…」

「ん?それは常駐さん――灰境団とかハンター協会とかのヒトが、ヴァカンス有休という名の長期任務で派遣されてくるんだよ〜。
んで、そのヒトたちが年中無休で魔孔の監視、してくれるんだ〜」

「…………なんか…想像してたより……かなりへーわじゃねーのか…?」

「……如何ほどをフーさんが想像してたのかわかんないけど――へーわだよ、ヴァンパイアいちりゅうサンたちの心遣いのおかげで」

「……」

 

 ババアに始祖にオリナ兄に迷惑をかけた――だけじゃあなく、
他の王侯貴族ヴァンパイアにも、俺は迷惑をかけた――というのか、世話になっていたらしい。
…ただまぁ、それを迷惑とも世話とも思ってない連中ばかり――…だろーけどさ…。

 …結局俺は、森林伐採っていう環境破壊をしただけ――だった。
俺が暴れて遺った荒れ地を拓いて、畑を作って、最終的に実りをもたらしたのは――苦労を重ねたのは、残された連中。
……これを、俺は「結果」と受け止めていい――んだろうか?
――まぁ、俺はまったく「いい」とは思わんが。これのどこが「俺」の結果か!

 

「……常駐、がいるならなんで出て来たんだよ」

「んー?まぁそりゃあ――一応、ね?いざとなったらオレも頑張らなきゃだし」

「……いや、お前は頑張んねー方がいーだろ…。大真面目に、お前の幻想いいひとイメージ大崩壊するぞ…」

「ぅーんまぁ……今となっては別にそれでもいいんだよねぇ――フーさんが帰って来たんだし」

「…!」

「まぁ楽しくド田舎牧歌ライフ送ってるけどね?
ここに骨――ってか魂埋めるつもりはないんだよねぇ〜――なんたってオレ、フーさんの親友マブだからっ」

「………………人聞き悪ィこと言ってんじゃねーよ」

「ちょっ…!ちょちょちょ!!顔面掴まないで!崩れちゃうから!リアルピカソになっちゃうからぁ〜!」

 

 いざとなったら――と言いながら、ニアはその行動の原動力になるだろう人望を、失っても構わないと言った。
それが、元からアイツの根底にある身勝手な奔放さからくる言動なら納得しわかってやる――ところだが、
俺について行くから不要だ、っつーなら納得なんぞしてやらない。

 俺のために――なんて、話じゃあない。
これを俺のためと言うなら、俺の親友ダチを未だ名乗るというなら――

 

「途中で仕事、放り投げんじゃねーよ」

「…………へ?」

「俺の目的は、ヴァンピールどうほうにまともな生活を当たり前にさせてやることだ。
…ババアやオリナ兄、あとお前のおかげで、ヴァンピールの生活は限りなく俺の目標に近づいた――が、また達成には至ってねぇ。
当たり前に魔獣やら悪霊の脅威にさらされる生活のどこが『まとも』だってんだっ」

「あ…ああうん…そだね…」

「だからまず、その脅威アナを塞ぐ――今の俺ならできんだろ?」

「――できるよ、そりゃ。俺が力を貸せば――塞ぐ、まではね」

「ぇっ、ちょ……!?ルーサマ!?」

「そんなに驚かなくていいよ。単に俺とフェガリの利害が一致しただけ――だからさ」

 

 一陣の冷気――と一緒に姿を見せたのは一匹の白狼。
月明かりに照らされた青白い白銀の毛並みと、氷の様に透き通った精悍な顔立ちは神秘的――じゃあなく、
文字通りの「神秘」が具現したモノ――白狼ノ神当人だ。

 驚くニアに白狼は平然と「驚くな」と言う――が、それは無理な相談だろう。
俺がお前に話しかけて、お前がそれに答える――なんざ、昔を知らないニアじゃあ受け入れられるワケがない。
――そんだけ、俺は長らくコイツを拒絶してきた――んだからな。

 

「…塞ぐ、が限界か?」

「…最弱状態のお前で、なおかつお前が不得手の封印系魔法――
――…な上に、そもそもお前に俺の神気チカラが馴染みきってないから還元率悪くて出力出せない――からね」

「……手を増やせばどーにかなんのか?」

「いや、まず一旦塞いでから――だよ。
もうアレ、神子でも簡単には閉じれる規模レベルじゃない――っていうかアレ、そもそもアレ大魔孔だし」

「はぁ?!端から無理じゃねーか!」

「…だから『塞ぐまでは』って言ったでしょ――
――そりゃ?お前がもっと神子として成長すれば『閉じる』って手段かのうせいも見えてくるだろうけど、今は無理だよ――…俺も、新米・・だしね…」

「……そーゆーことなら…しかたねーな……」

「………もちろん、いずれは閉じれる――けどね…?」

「…ったりめーだ。こんなモン、放置しとけるかっての」

「……それ言ったら世界中の魔孔…閉じなきゃならないことになるけど?」

「……全部閉じたら、それはそれで不都合起きんだろ…」

「まぁ…ねぇ…」

 

 長らく、白狼ノ神の神子であることを、コイツの存在を拒絶してきた俺――
――なんだが、正直なところ、それは最初からじゃあなかった。

 ガキの時分――神子のその存在の重さも、その強大な力に伴う責任も知らなかった頃には、
俺はコイツを普通に友人か何かの様に受け入れていた。
ガキとうじの感覚で表現するなら――めっちゃ口の達者な嫌味ったらしいイヌ、だ。

 獣神、そして神子の力に畏れをなし、それを拒絶した――それ以降は、ニアが知っている当時とおり
自分にとって最大の切り札――白狼の神子であることを、自分の保身のために出し惜しんだ。
…手にしていれば、もっといい未来けつまつに、同胞ヴァンピールたちを導ける――ってわかってたのに、な。

 

「――で?具体的にはどーしたらいいんだ?」

「…まずは戦力の確認だよ。…あとできれば魔孔の活動記録とか見たいとこだね」

「なるほど。まぁ大体その辺りはニアが――…ってなんだよ」

「……いやぁー…フーさんとルーサマが……すんごく普通にしゃべるから………」

「…まぁ、お互いに個人・・を嫌ってたわけじゃないからねぇ…」

「……まーな」

「……………ぇ、じゃあやっぱり仲良――」

「「ちがう」」