主さまが籍を置いて、汚れ仕事――なんて暗殺あらごと部門の筆頭おさを務めていたのが、
イタリア――だけにとどまらず、世界に対しても影響力を持つ組織犯罪集団マフィアのコラジョチェーロファミリー。
暴力を以て暴力を排し、拠点とした街の発展のために法に逆らっはんざいをおこかした――悪くて善い集団、だ。最初と今は。
で、その間は権力と金のために犯罪ぼうりょくを布いた、ワルくて悪い集団だった。

 一時はやんちゃが過ぎて、真祖さまの「お仕置きしゅくせいリスト」にも入ってた――んだけど、それは色々あってそれからは除名された。
そして、80年くらい前に起きた欧州大地震によってイタリアという国自体が大打撃を受けた時には、
西方灰境機関しんそさまの協力と支援を受けて復興に尽力し、国すら容易には手が出せない「組織」になっていた。

 …ただ、その大災害の原因・・に、まったく関係がなかったわけじゃない――からね…。
原因の原因・・を、防ぐことができたかもしれない――って、後になってからとはいえ思える部分かのうせいがあったわけだから――
――…原因の一端を担っていたと言えば言えなくもないから…当然のこととして、当たり前にするべき「贖罪しりぬぐい」だったのかもしれないけど…。

 

「……シスコン患いすぎだろ…」

「シスコンっていうか…自分の半を奪われたわけだからね――…二回も」

「…カウントすんのかよ…一回目それ…」

「…そりゃするよ。
だって――『イタリア乗っ取っちゃおうかー』って言ったからね、冬輝様。夏希様がお嫁に行った時」

「………わ…かってた…こと、だが……改めてヤバいな…アイツ………」

「そーだね、生み出しちゃうくらい――ね」

「……」

 

 人の域を軽々と逸脱した人間みこ――の所業に、フェガリは船酔いに苦しむ人間よりも酷い顔をする。
…でも、これはばかりは仕方がない――だって俺でもげっそりする話だから。

 今はさすがに慣れた――っていうかマヒしたけど、
あの災害じけんを、四皇きりんに仕える八双はくろうとして前にした時には……
…物凄く慌てて母様を頼っぶざまをさらした…から、ねぇ……。

 

「………今は…落ち着いてんのか?」

「…いーや、全然。正直今の方がずっと悪いよ――黄龍ノ神、に限っては…」

「……次代の麒麟の一件――か」

「…そー…だけど………。…あんまり簡単に言うと、狐に呪い殺される――よ?」

 

 俺の半分冗談の脅しけいこくに、フェガリは思いっきり顔を引きつらせる。
…まぁ、全く知らない連中じゃあない――し、半ばまもの扱いされてるけど、
アイツらの本質は最終的には獣神に由る子神の神気それ――だからねぇ…。

 ……ま、出力だけでいったら俺の方がずっと上だけど。…出力だけなら。

 

「…俺が寝てる間に――…ややこしいことばっか起きたらしいな…」

「まぁね――ただ、お前がいたからって大部分は変わらなかったと思うけどさ。
…仮に、俺の神子だったとしても」

「……」

 

 神子の怒りに呼応した黄龍ノ神が引き起こした天変地異――の下準備まえぶれを前にして、その実行を防ごうとした神子ぶかたちはいた。
四神、八双と契約を結んだ神子たちは、怒りに狂った黄龍の神子を止めることに――成功は、した。
でも、その抗争せっとくには、多大な犠牲と損害を伴った。
…そりゃ、世界が滅ぶ「原因」を作るよりは――…幾分もよかったのかもしれないけど…さ。

 もし俺に神子がいたなら――俺が母様の様に献身的でかしこくあったなら――なんて、どうしようもないことも、考えなかったわけじゃない。
でも、どうあっても、俺が俺で、フェガリがフェガリであるうちは、たどり着けない仮定もしも
だけどそれでも考えはした。何かできたんじゃないか――って。

 …ただ、考えに考えて、考えまくった末に行き着いたのは――
――ちょっとの命を守れた、程度の成果しか上げられなかっただろうって結論ハナシだったけど…ね。

 豊かなイタリアの海に抱かれた、温暖で穏やかな気候の――クッラビアンコなもなき島。
島という土地の性質上、人間が暮らせる面積というのはそれほど広くはない。
けれどそれでも、小さなこの孤島には1400人程の島民が生活している。
そしてその島民すべてが吸血鬼――で、総数の九割以上を占めているのが過去いつか新派ヴァンピールと名乗った被害体吸血鬼たちで、
他一割にも満たない少数の旧派ヴァンパイアが彼らを統治し、島を守っている。
白ノ始祖によって拓かれた、吸血鬼による、吸血鬼のための島――それが白の揺り籠クッラビアンコ島だった。

 俺たちが乗っていた船が停泊したのは、とても近代的とは言えない、古臭くて田舎臭い――でも懐かしくて優しい雰囲気の小さな港。
船を降り、主さまから案内役を任された志季のあとを追って――港の奥にある町を目指して歩く。
っと言っても、数分も歩けばそこは町。港と同じ雰囲気の、前時代的で文明の発展の影が見えない――けれど趣のある牧歌的な町に到着する。
そんなのどかな田舎町――を、フェガリは強烈な不安と罪悪感を感じながらもその影を一切見せず、平然としている風、で進んでいた。

 移動に移動を重ね、時刻は既に正午過ぎ――だけれど、太陽はまだまだ高い位置にある。
純血統、そして血統せだいわかい被害体であれば、燦々と照り付けるイタリアの太陽であろうと屁でもない。
でも、そうじゃない被害体きゅうけつきにとって、太陽は光はただあるだけで死の影を落とす忌まわしい存在――
――…だから、「昼食も済ませて、さぁもう一仕事!」ってな時間帯なのに、町に人の気配はなく、閑散としている。
……まぁ、一番の理由は住民のほとんどが出稼ぎに出てるから――なんだけど。

 

「………田舎…にしても…――不用心、過ぎねーか…?」

「……それだけ治安がいいんだよ」

「コミュニティが狭いだけに、犯人捜しは容易――
――…である以上に、居場所を追われる事リスクに見合ったリターンがない、ですから」

「……」

 

 多くの吸血鬼に、水の上を歩く能力はない――っていうか、純血統でも能力はない。魔法を使えばできるけど。
でももしそれを、全ての吸血鬼ができた――としても、この島からイタリア本土へ渡る、なんてのは血統ちから良いある吸血鬼でなければ無理だろう。
……一応、歩けない、走れない距離ではない――けど、さすがに「休憩なし」っていうのは現実的じゃないからねぇ…。

 ――だから、島っていうのは、手を加えなくても上等な「牢獄」になる。
連れて来られたが最後、死んでも故郷ほんどに帰れない――墓所ろうごくに。
俗世ソトから隔絶され、脱出たすけの手を伸ばすことすら誰もできはしない――絶海故に絶対の牢獄。
逃れるチカラを持っているのであれば、そも牢獄そこに囚われることはない――
――…ただその場合、生きているか・・・・・・は保障できないけどね。

 

 人気のない町を、奥へ奥へと進んで行く――と、町の一番奥に建てられた教会にたどり着く。
吸血鬼ばかりが暮らす島に、神の子イエスを祀る教会がある――わけなくて、これは白狼ノ神かあさまを祀る神殿きょうかいだ。

 始祖・ミシェルに力を与え、吸血鬼という種族に揺るぎない地位と繁栄をもたらした――白狼ノ神。
その存在は、吸血鬼にとっては氏神のような存在で、特に純血統の吸血鬼たちの間で勝利と繁栄、そして家族円満――から、
なぜか縁結びに五穀豊穣、果てには交通安全までご利益のある「神様」として、白狼ノ神は篤く信仰されている。
…ただ正直…最後3つは専門外――…なんだけど、ね?でもどーゆーわけだか、そこも担ってると思われてるんだよねぇ……。
…まぁ、ある程度――そこらの神仏程度のご利益は与えられるけどさ?

 ほぼ、被害体ばかりが暮らす島に、純血統が信仰する神を祀る教会を建てた――わけじゃない。
というかそもそもこの島は、被害体のための島じゃない。
吸血鬼のため、であることは間違いないけれど――そもそもは、主さまのチカラを受けた弱い・・吸血鬼たちのために拓かつくられた島だった。

 …でも、それを――

 

「フ〜ぅ〜すわぁああ〜〜〜〜――ぁンぐッ!!!

「あ、ワリぃ」

 

 教会の前に佇んでいた黒のキャソックに身を包んだ男――が、
歓迎と懐古、そして再会の喜びのすべてを全身と顔で表し、フェガリを抱擁で迎え――ようとした。
けど、それをフェガリは当たり前のように、一切の遠慮もなく――ガシッ!と力任せに顔面を鷲掴んで止めていた。

 ――ただ、一応「悪いことをした」っていう認識はあったらしくて、フェガリは「悪い」と謝罪を口にしながら無遠慮に鷲掴んだ男の顔を開放する。
すると、顔の自由を取り戻した男は少しばかり不機嫌そうに「も〜」と言いながら、
フェガリにぐしゃりと掴まれた自分の顔をさすり――顔が整った・・・ところで、顔を上げた。

 

「も〜100年ぶりの再会なんだからさ〜。こっちの調子に合わせてよ〜」

「…………」

「ぇ、ちょ、なにその顔っ。え、なに?ウソでしょ??嬉しくないの?嬉しくな――」

「…まずその顔どーにかしろって…」

「ぅん?」

 

 頭が痛い――といった風に、頭を抑えながらフェガリが「顔を」と男に指摘すると、
それを受けた男は「どうゆうこと?」と言いたげに首をかしげる。
そしてそれを受けたフェガリと言えば、相変わらずの男の調子に安堵――よりも
更なる頭痛を覚えたようで、今度は鼻根を抑えて「あ゛ー…」と呻いた。

 そんなフェガリと男のやり取り――を時間の無駄あほくさいと思ったのか、志季が「子供たちが泣きますよ」と問題こたえを告げる。
するとそれでフェガリの言葉に合点がいったらしい男は「ああ〜!」と晴れやかな笑顔――らしき表情を見せると、もう一度顔を手で押さえ――

 

「ハーイっ、元通り〜」

「………100年経っても進歩しねーなぁ…」

「も〜ちょっとフーさん?オレの肉体カラダは日々劣化してるんだよー?
そこを研究どりょく維持・・してるんだからさぁ――ちょっとくらい褒めてくれてもいーんじゃないのー?」

「……ハッ、バカ言え。一番に死んじまえ・・・・・って思ってたヤツがわざわざ・・・・生き残ってたんだぞ?
…ったく……バカにバカを重ねて、更に盛大に大バカ塗り重ねやがって――…今すぐ速やかに死ねッ!!

「くふふふ〜〜ん。やだ〜、フーさんったらひっどぉ〜〜いっ」

 

 死なずに在り続けたことを褒めろという男に、フェガリそれをバカと否定して――更に「今すぐ死ね」とまで言った。
でも言われたほうはまったくフェガリの言葉を重くまじめに受け止めていないようで、
分かりやすく冗談めかして「酷い」――とは言うけど、毛の先ほどすらも落ち込んでいるような風はなかった。

 ――まぁでも、男の反応は当然と言えば当然。
2人の関係じじょうを知らないヤツからすれば――…いや、さっきのは誰が見ても「ツンデレ」ってわかるか…。
――そう、フェガリの男に対する「死ね」は照れ隠し――百年という長い時間を、牢獄ひかげで待っていてくれた親友みぎうでへの、
ある意味で最大級の感謝であり、謝罪であり――罪悪感の表れだった。

 …そしてこの展開を、この男は見越していた。
自分が存在し続ければ、間違いなくフェガリは心を痛めるとわかっていた――けど、コイツはそれを理解した上でおわらなかった。
どうしてリタイアしなかったのか――その想像はちょっとはしたけどすぐにやめた。
だってコイツの頭の中、まぁまぁおかしいからね。
俺が想像したところで、正解になんてかすりもしないと思って、ストレートに「なんで」って訊いたら――「死ねとは命令されてない」だとさ。

 

「………死ねって命令されたけど?」

「っ…!」

「ああ〜そうねぇ〜そだねぇ〜。命令されちゃったねぇ――元同級生タメに☆」

「………………は?」

「昔はさー?同い年なのにカリスマ全開で、吸血鬼なのにキラッキラ輝いてたフーさん――について行きたーいって思ったけどさー?
年下でがさつでカリスマ皆無の化石ミイラにはさすがについて行き――たガッふん!!

 

 男の台詞を遮った――のは、フェガリの蹴り。

 がさつ、カリスマ皆無は全然許容範囲だった――だろうけど、年下とミイラは思い切りよくその遙か向こう。
格下に嫌味を言われたところで、滅多に手を上げなかったフェガリが、部下に手を上げた――…と受けるのは素直過ぎ。
これはあれ、自分で自分が一番認めたくないことを認める――癇癪ぼけつってやつ。

 

「フ…フー…さん…!これ…!こ、れェ…!死ぃーんーじゃーぅう〜〜……!!」

「ア゛?テメェもう死んでんだろ」

「いやっ……そう、だけど――ね…?!
ほらっ…おにーさん…っ…かわいいかわいい子供バンビーノちゃんたちのお世話っ…し、しないといけない…わけで、ね…?!」

「あ゛〜?かわいい子供バンビーノ――だァア?テメェ、ふざけんのもいー加減にしろよ。
外道死霊魔術師ネクロマンサーが可愛いだの世話だの……顎外すぞ、物理ガチで」

「ちょっ?!ホントにやめてって!顎外しアレやられたら子供たちにトラウマ植え付けちゃうから!!」

「――よし、覚悟ができたらしいな。お前のそーゆー『笑い』に貪欲なとこは気に入って――ぞ」

「え、ちょっ…過去系?!え、待って待って!顎だけじゃなくて魂も外される感じなの?!
ちょっとー!アルファちゃーん!助けてよ〜〜!」

「……ということでストップですフェガリさん」

「あ゛?」

 

 割と本気で男を手にかけるつもりだった――らしくて、それを止めに入った志季を、フェガリは殺気を込めて不機嫌そうに睨む。
かつては数百万の吸血鬼ヴァンピールの頂点に立っていた吸血鬼の王フェガリの殺気――を受けた志季だけれど、
この志季も志季でかなりの修羅場をかいくぐって、また血にまみれた地獄を見てきたつわものバケモノで。
同じ穴の狢だけに、フェガリの殺気をひしひしと感じているだろうにも関わらず、
志季は怯む気配すら見せずに「冗談ではないんです」と面倒そうに男の弁解を肯定した。

 

「大体全部悪い冗談――信じられないとは思いますが、それも全ては真祖様の意向の上で成った現実コト、です」

「ッ…〜〜〜!!」

「そーそー、そーなんだよ〜。
死霊魔術師ネクロマンサーのニアくんは、貧弱モヤシボディの核を真祖サマにめきょーんと摘み取られちゃってねー?
このまま昇天するのかなーって思ってたら、モヤシボディの核が真祖印の魔法石にグレードアップして――
――白狼教会の牧師・ニアお兄さん爆誕☆――ってな運びでオレホントに牧師で孤児院の先生なんだよー?」

「っ、く…!全っ然信じられねェことしか言ってねーのに…――否定、できねェ……!!」

「これもすべては真祖サマパゥワー!――ぁふん!

 

 笑顔で、っていうかノリノリの調子で頭の痛いことを言う黒のキャソックの男――ニア。
フェガリにとって親友であり、右腕だった――死霊魔術師でリッチのニア――だけに、フェガリの一撃には容赦がない。
苦楽を共にした相棒だから――というのもあるだろうけれど、今回に関しては、ただただニアの調子にイラっとしたんだろう。…うん。分かるけどね?

 全部悪い冗談――にわかには信じ難い展開じじつだろうと、そこで真祖さまの存在を持ち出されると、とりあえず「否定」ができなくなる。
「まさか」とすら否定ができないんだから、否定の「芽」なんていうのは存在しない――から、この嘘みたいな事柄じじつを肯定する以外の選択肢みちがない。
吸血鬼の世界に最初から在り続け、更にその中で常に無敵であり続けた真祖さま――だけに、その全てには疑る余地さえ、ないんだよねぇ…。

 …一応、真祖さまの存在を出しただけ・・・・・なら、疑う余地なんていくらでもあるだろうけど、
真祖さまっていう個人そんざいを、幼い頃から近く知って、大人になってからは真正面からぶつかったフェガリ――だからこそ、真偽の判断は迅速かつ的確。
たとえ頭の痛い事実だろうと、ブレることなく直通で真実こたえに行き着く――…ホント、賢いって生き難いね?